1. 会社設立による相続税対策って、どういうこと?
「会社を設立する」と聞くとなんだか大それたことのように感じるかもしれませんが、相続対策として会社を作るというのはご自身の財産の一部をその会社に移したり会社を通じて事業を行ったりすることで、相続税の評価額を下げる方法です。
例えば、今個人で持っている不動産や事業を新しく作った会社(法人)に移すことで次のようなメリットが生まれます。
- 評価を下げる: 個人で財産を持っているよりも会社が財産を持っている形にすると相続税を計算する際の評価額が下がる可能性があります。
- 財産を分散する: 会社の株式を家族に少しずつ持たせることで生前から財産を分け与える(生前贈与)ことにも繋がり将来の相続財産を減らせます。
2. 法人所有の不動産の税務上の扱いについて
個人で不動産を持っている場合と、会社(法人)が不動産を持っている場合では、税金のかかり方が大きく違ってきます。
2-1. 不動産の取得・保有にかかる税金
- 不動産取得税・登録免許税: 不動産を会社名義で取得する際にも個人と同じようにこれらの税金がかかります。
- 固定資産税・都市計画税: 不動産を持っている限り毎年かかる税金です。法人名義でも個人名義でも基本的な税額は同じですが、会社の場合は経費として計上できるのでその分会社の利益が減り法人税を抑える効果があります。
2-2. 不動産からの収益(家賃収入など)にかかる税金
- 個人の場合: 家賃収入などの不動産所得は、個人の所得税として累進課税(所得が増えるほど税率が上がる仕組み)で課税されます。所得が多いと税率が最大45%(住民税と合わせると約55%)と高くなる可能性があります。
- 法人の場合: 会社が不動産を所有して家賃収入を得る場合、その収入は会社の売上となりそこから経費を差し引いた利益に対して法人税がかかります。法人税の税率は、個人の所得税よりも低い税率で済む場合がありますし、経費にできる範囲も個人より広いです。
2-3. 不動産の売却にかかる税金
- 個人の場合: 不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得税がかかります。保有期間によって税率が変わり、短期(5年以下)だと約39%、長期(5年超)だと約20%です。(所得税・住民税含む)
- 法人の場合: 会社が不動産を売却して利益が出た場合、その利益は会社の所得となり法人税がかかります。個人のように保有期間によって税率が変わることはありませんが、他の事業所得と合算されるため会社の利益全体で税額が決まります。
3. 役員報酬の調整って、どういうこと?
会社を設立したら、ご自身がその会社の「役員」となり、「役員報酬」を受け取ることができます。この役員報酬の調整が、相続税対策としてとても重要なんです。
3-1. 役員報酬と所得税・社会保険料
- 会社から役員報酬を受け取ると、それはあなたの「給与所得」となり、所得税と社会保険料(健康保険、厚生年金など)がかかります。
- 一見すると税金や保険料が増えるように思えるかもしれませんが、会社側から見れば役員報酬は「経費」として扱われます。つまり、役員報酬を支払うことで会社の利益が減り、その分会社が支払う法人税を抑えることができるんです。
3-2. 役員報酬の調整によるメリット
- 所得の分散: 役員報酬を適度な金額に設定することでご自身の所得税を抑えることができます。もし配偶者の方も役員にすることができればさらに所得を分散させて家族全体の税負担を減らすことも可能です。
- 社会保険料の活用: 役員報酬を通じて社会保険に加入することで、将来の年金額を増やしたり病気やケガの際の保障(傷病手当金など)を受けられるようになります。
- 会社の利益調整: 会社設立の目的にもよりますが、会社の利益が出すぎると法人税が高くなってしまいます。役員報酬を経費として計上することで、会社の利益を適切に調整し、法人税を抑えることができます。
まとめ:会社設立による相続税対策のポイント
- 財産の評価減: 不動産などを法人に移すことで相続税の評価額が下がる可能性があります。
- 生前贈与のしやすさ: 会社の株式を少しずつ家族に贈与することで贈与税を抑えながら生前贈与を進められます。
- 所得の分散と節税: 役員報酬の調整により、ご自身やご家族の所得税、会社の法人税を最適化できます。
- 経費の範囲が広がる: 個人では認められなかった費用も会社であれば経費として計上できる場合があります。
ただし、会社設立には設立費用や運営費用がかかりますし、税務申告も複雑になります。また、個人の状況や財産の状況によって、最適な方法は異なります。