相続税ってどんな税金?
相続税は、亡くなった方(「被相続人」と言います)の財産を、相続する方(「相続人」と言います)が受け取った場合に課せられる税金です。財産には、現金、預貯金、不動産、株、車、貴金属など、色々なものが含まれます。
相続税の計算ステップ(「分ける→まとめる→分ける」がポイント!)
相続税の計算は少し複雑に感じられるかもしれませんが、「分ける→まとめる→分ける」という流れで考えると分かりやすいです。
ステップ1:相続財産をすべて把握して、課税価格を計算する
亡くなった方が持っていたすべての財産をリストアップします。そして、それぞれの財産がいくらになるのか(「相続税評価額」と言います)を計算します。 また、借金(住宅ローンや事業の借入金など)や未払いの税金、葬儀費用など、マイナスの財産があればそれらを差し引くことができます。これを「債務控除」と言います。
ポイント!
- 「みなし相続財産」:生命保険の死亡保険金や死亡退職金なども、相続税の対象になる場合があります。これは「みなし相続財産」と呼ばれます。
- 生前贈与の加算:相続開始前3年以内(※)に亡くなった方から贈与された財産がある場合、その贈与された財産も相続財産に加算して計算します。これは「生前贈与加算」と呼ばれます。(※令和6年1月1日以後の贈与から、加算対象期間が段階的に7年間に延長されることになっています。)
ステップ2:基礎控除を引いて「課税遺産総額」を計算する
ステップ1で計算した財産の合計額から、相続税がかからない部分(「基礎控除」と言います)を差し引きます。 基礎控除の金額は、以下の計算式で決まります。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
- 法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。一般的には、配偶者、子ども、親、兄弟姉妹などが該当します。
- 例えば、ご主人様が亡くなり、奥様とお子様2人が相続人の場合、法定相続人は3人です。 この場合、基礎控除額は 3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円 となります。
- もし、この基礎控除額よりも財産の合計額が少なければ、相続税はかかりませんし申告も不要です。
基礎控除を差し引いた後の金額が「課税遺産総額」となり、この金額に相続税がかかります。
ステップ3:法定相続分で仮に分け、全体の相続税の総額を計算する
ステップ2で計算した「課税遺産総額」を、実際の遺産分割の割合に関係なく、民法で定められた「法定相続分」で仮に分けます。
法定相続分の例:
- 配偶者と子がいる場合:配偶者1/2、子1/2(子が複数いる場合はさらに均等に分ける)
- 子がいないが配偶者と親がいる場合:配偶者2/3、親1/3
- 配偶者と親もいないが兄弟姉妹がいる場合:兄弟姉妹がすべて相続(兄弟姉妹が複数いる場合は均等に分ける)
仮に分けたそれぞれの金額に、次にご説明する「相続税の税率」を当てはめて、一人あたりの仮の相続税額を計算します。そして、その仮の相続税額をすべて合計したものが「相続税の総額」になります。
ステップ4:実際の取得割合で按分し、各種税額控除を適用して最終的な納税額を計算する
ステップ3で算出した「相続税の総額」を、実際に相続人が受け取った財産の割合(遺産分割協議で決めた割合など)で按分します。 そして、その按分した金額から、それぞれの相続人に適用できる「税額控除」を差し引きます。これが、最終的に各相続人が納める相続税額となります。
相続税の税率(2025年現在)
相続税の税率は、相続する財産の金額によって段階的に高くなる「超過累進税率」が採用されています。先ほどの「ステップ3:法定相続分で仮に分け、全体の相続税の総額を計算する」の段階で適用する税率です。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(例)法定相続分に応ずる取得金額が4,000万円の場合 → 5,000万円以下の欄に該当するので、税率20%、控除額200万円を適用します。 4,000万円×20%−200万円=600万円 が、その人の仮の相続税額となります。
相続税の控除の種類
相続税の計算では、税金が安くなる「控除」がいくつかあります。
- 基礎控除: 先ほどご説明した「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」の金額です。相続財産がこの金額以下であれば相続税はかかりません。
- 配偶者の税額軽減: 配偶者が相続する財産については、原則として法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い額までは相続税がかからないという、非常に大きな控除です。これは、残された配偶者の生活を守るための制度です。
- 未成年者控除: 相続人に未成年者(18歳未満)がいる場合、その未成年者が18歳になるまでの年数1年につき10万円が相続税額から差し引かれます。 (例:10歳の未成年者がいる場合、(18歳 – 10歳) 8×10万円 = 80万円が控除されます)
- 障害者控除: 相続人に一定の障害がある方がいる場合、その方が85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が相続税額から差し引かれます。
- 相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ): 短期間に相続が立て続けに発生した場合(例えば、お父様が亡くなった数年後に、その相続人であるお母様も亡くなった場合など)、前に亡くなった方の相続税がすでに課税されていることがあります。このような場合、一定の条件を満たせば、前回の相続で支払った相続税の一部を今回の相続税から差し引くことができます。
- 生命保険の非課税枠: 生命保険の死亡保険金のうち、法定相続人1人につき500万円までは非課税となります。 (例:法定相続人が3人の場合、500万円×3人=1,500万円 まで非課税) これは、ステップ1で「みなし相続財産」として加算される生命保険金から差し引かれるものです。
簡単なシミュレーション方法
相続税の総額をざっくりと知りたい場合は、以下のステップで試算してみましょう。
【シミュレーション例】
- 亡くなった方:夫
- 相続人:妻、長男、長女(計3人)
- 夫の財産:現金預金1億円、自宅土地建物5,000万円(小規模宅地等の特例適用なし)、生命保険金(受取人:妻)2,000万円
- 借金・葬儀費用:500万円
ステップ1:課税対象となる財産を合計する
- 現金預金:1億円
- 自宅土地建物:5,000万円
- 生命保険金:2,000万円(非課税枠を考慮する前に一旦全額含める)
- 生命保険の非課税枠:500万円×3人=1,500万円
- 課税される生命保険金:2,000万円−1,500万円=500万円
- 合計:1億円+5,000万円+500万円=1億5,500万円
- マイナスの財産(債務控除):500万円
- 正味の遺産額:1億5,500万円−500万円=1億5,000万円
ステップ2:基礎控除を引いて「課税遺産総額」を計算する
- 法定相続人:3人(妻、長男、長女)
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
- 課税遺産総額:1億5,000万円−4,800万円=1億200万円
ステップ3:法定相続分で仮に分け、相続税の総額を計算する
- 課税遺産総額:1億200万円
- 法定相続分で仮に分ける(妻1/2、長男1/4、長女1/4)
- 妻:1億200万円×1/2=5,100万円
- 長男:1億200万円×1/4=2,550万円
- 長女:1億200万円×1/4=2,550万円
- それぞれの税率を当てはめて計算
- 妻(5,100万円):5,000万円超1億円以下の税率30%、控除額700万円 5,100万円×30%−700万円=830万円
- 長男(2,550万円):1,000万円超3,000万円以下の税率15%、控除額50万円 2,550万円×15%−50万円=332.5万円
- 長女(2,550万円):1,000万円超3,000万円以下の税率15%、控除額50万円 2,550万円×15%−50万円=332.5万円
- 相続税の総額:830万円+332.5万円+332.5万円=1,495万円
ステップ4:実際の取得割合で按分し、各種税額控除を適用して最終的な納税額を計算する
ここでは、実際に妻が生命保険金を受け取っており、自宅も妻が相続するケースとして、遺産分割協議の結果、妻が1億円、長男が3,000万円、長女が2,000万円を相続したと仮定します。
- 相続税の総額1,495万円を、実際の取得割合で按分
- 妻:1,495万円×(1億円/1億5,000万円)=約996.7万円
- 長男:1,495万円×(3,000万円/1億5,000万円)=299万円
- 長女:1,495万円×(2,000万円/1億5,000万円)=約198.3万円
- それぞれの税額控除を適用
- 妻:配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分までは非課税)を適用すると、妻の相続税は0円になります。(このケースでは、妻が取得した財産1億円は1億6,000万円以下なので、全額非課税)
- 長男:299万円
- 長女:約198.3万円
- 最終的な納税額:0円+299万円+198.3万円=497.3万円
このように、配偶者の税額軽減は非常に大きな控除になることがお分かりいただけるかと思います。
生命保険や医療保険についてのアドバイス
相続対策として、生命保険や医療保険を考えるのはとても良いことです。
- 生命保険:
- 非課税枠の活用:先ほどご説明したように、死亡保険金には法定相続人1人につき500万円の非課税枠があります。相続財産が多い場合でも、この非課税枠を有効活用することで、相続税を抑えることができます。
- 納税資金の準備:相続税は現金で一括納付が原則です。不動産など、すぐに現金化できない財産が多い場合、生命保険金は確実に現金で受け取れるため、納税資金として非常に有効です。
- 遺産分割の調整:特定の相続人に確実に財産を残したい場合や、公平な遺産分割が難しい場合、生命保険金を活用することで、遺産分割の調整弁として使うことも可能です。
- 医療保険: 相続税対策とは直接関係ありませんが、ご自身やご家族が病気やケガで入院・手術が必要になった場合に、医療費の負担を軽減してくれます。健康状態が悪化すると保険に加入しにくくなるため、元気なうちに加入を検討することをおすすめします。もしもの時に医療費に心配があると、残された家族に負担をかけてしまう可能性もあります。
まとめ
相続税の計算は、少し複雑に感じるかもしれませんが、ステップを追って考えれば大丈夫です。特に、基礎控除や配偶者の税額軽減などの控除は、相続税額に大きく影響しますので、これらを理解しておくことが大切です。
ご自身の相続について心配なことや、具体的なシミュレーションをしてみたい場合は、ぜひ専門家である税理士や弁護士に相談されることをお勧めします。また、生前贈与や遺言書の作成など、生前の対策を講じることで、相続税を抑えたり、スムーズな相続を実現したりすることも可能です。