家業を継ぐ甥や姪のための相続対策:事業用資産の評価と承継後の事業運営の注意点
大きく分けて、以下の3つのポイントでお話させていただきます。
- 相続対策:甥や姪にスムーズに事業を引き継がせるには?
- 事業用資産の評価:家業の財産ってどうやって価値を測るの?
- 承継後の事業運営における注意点:引き継いだ後、困らないために
1. 相続対策:甥や姪にスムーズに事業を引き継がせるには?
甥っ子さんや姪っ子さんに家業を継がせる場合、法的な順位でいうと、甥や姪は法定相続人ではありません。つまり、何もしないと相続の権利がありません。ですので、しっかりと対策をしておく必要があります。
① 遺言書を活用しましょう!
これが一番確実な方法です。遺言書で「家業の事業用資産は甥の〇〇に、あるいは姪の〇〇に全て相続させる」と明確に意思表示をしておくことが大切です。
- 公正証書遺言がおすすめ: 自筆証書遺言(自分で書く遺言)もありますが、形式不備で無効になったり、紛失の恐れもあります。公証役場で作成する公正証書遺言は、公証人が内容を確認してくれますし、原本が公証役場に保管されるので安心です。
② 生前贈与も一つの手ですが…
生前贈与で少しずつ事業用資産を渡していく方法もありますが、事業用資産の場合、すぐに全てを贈与するのは難しいことも多いでしょう。また、贈与税がかかる可能性がありますので、税理士さんとよく相談する必要があります。
- 相続時精算課税制度: 贈与時には贈与税がかからず、相続時にまとめて相続税として計算される制度もありますが、これは親から子への贈与がメインですので、甥や姪への適用は限られます。
- 事業承継税制: 中小企業の事業承継を支援するための税制もあります。一定の要件を満たせば、贈与税や相続税の納税が猶予されたり、免除されたりする制度ですが、これはとても複雑なので、必ず専門家(税理士)に相談してくださいね。
③ 養子縁組も検討できます
もし、甥っ子さんや姪っ子さんを法的に自分の子どもと同じ立場にしたいと考えるのであれば、養子縁組という方法もあります。養子になれば、法定相続人となり、遺留分(相続人が最低限もらえる相続財産の割合)も発生しますので、相続の際に有利になります。
- メリット: 法定相続人になることで、遺産分割協議に参加でき、遺留分も主張できます。
- デメリット: 他の相続人との関係性や、甥や姪自身の気持ちも重要になります。慎重に検討してください。
④ 家族信託という方法も
これは少し専門的になりますが、家業の資産を信託財産として、信頼できる人に管理・運用してもらい、最終的に甥や姪に引き継ぐという方法です。
- メリット: 遺言書だけでは対応が難しい、事業の継続性を確保したい場合に有効です。例えば、あなたが認知症になってしまった場合でも、信託契約に基づいて事業が継続できます。
- デメリット: 費用がかかることや、専門知識が必要なため、弁護士や司法書士に相談して契約書を作成する必要があります。
2. 事業用資産の評価:家業の財産ってどうやって価値を測るの?
家業の事業用資産の評価は、相続税を計算する上でとても重要になります。一口に「事業用資産」と言っても、色々なものがあります。
① 不動産(土地・建物)
- 土地: 相続税評価額は、路線価(道路に面した土地の1平方メートルあたりの価格)に基づいて計算されるのが一般的です。路線価がない地域では倍率方式(固定資産税評価額に一定の倍率をかける)が使われます。
- 建物: 固定資産税評価額が基準になります。
② 設備や機械、車両など
これらは減価償却(時間が経つにつれて価値が減っていくこと)を考慮した、現在の時価で評価されます。中古市場の価格や、税法上の未償却残高などを参考にします。
③ 在庫や売掛金など
- 在庫: 棚卸資産として取得価額(仕入れた時の値段)や時価(今の市場価格)で評価します。
- 売掛金: 事業で売上が上がっているけれど、まだ代金を受け取っていないお金のことです。これは額面通りに評価されます。
④ 営業権(のれん代)
これは目に見えないけれど、その事業が持っているブランド力や顧客基盤、技術力など、将来の収益力につながる価値のことです。特に利益が出ている事業の場合、この営業権も評価の対象になることがあります。計算方法は少し複雑なので税理士さんに相談するのが一番です。
⑤ 負債も忘れずに
事業には、借入金や買掛金(仕入れたけれど、まだ代金を支払っていないお金)などの負債もありますよね。これらは、プラスの財産から差し引かれます。
【ポイント】 事業用資産の評価は、専門的な知識が必要です。特に非上場の会社の場合、その評価はとても複雑になりますので、必ず税理士さんに相談して評価してもらうようにしてください。適正な評価額を知ることは、相続税を計算する上で非常に重要です。
3. 承継後の事業運営における注意点:引き継いだ後、困らないために
甥っ子さんや姪っ子さんが家業を継いだ後も、事業が順調に続いていくためにいくつか気を付けておくべきことがあります。
① 関係者への周知と協力
事業を継ぐことが決まったら、取引先、従業員、金融機関など関係者に対して早めに、そして丁寧に知らせることが大切です。新しい体制になっても、これまでと変わらぬお付き合いをお願いする旨を伝え、信頼関係を維持できるように努めましょう。特に従業員の方々には不安を与えないよう丁寧な説明が必要です。
② 経営ノウハウの伝授
これまでの経営で培ってきたノウハウや経験は何物にも代えがたい宝です。引き継ぐ前に、事業の強みや弱み、顧客との関係、仕入れ先、販売戦略、人材育成など、あなたがこれまでどうやって事業を動かしてきたかを、甥や姪にしっかり伝えてあげてください。
- 事業計画書の作成: 一緒に将来の事業計画を立ててみるのも良いでしょう。
- 同席やOJT: 実際に現場に連れて行き、取引先との交渉や従業員とのコミュニケーションを見せるなど、実践を通して学ばせるのが一番です。
③ 資金繰りの確認と準備
事業を継続するには資金が必要です。当面の運転資金はもちろんのこと、設備投資や事業拡大のための資金計画も立てておくことが重要です。
- 融資の検討: 必要であれば金融機関からの融資も検討することになります。金融機関との関係性を引き継ぎ、支援を得られるようにしましょう。
- 緊急時の資金確保: 万が一の事態に備えて予備資金も用意しておくことが大切です。
④ 法的・税務的な手続き
事業を承継すると、様々な法的・税務的な手続きが必要になります。
- 名義変更: 会社の代表者変更、不動産や車両などの名義変更が必要です。
- 許認可の取得: 事業内容によっては、新たに許認可を取り直す必要がある場合もあります。
- 税務署への届出: 税務署への届出も忘れずに行いましょう。
これらも税理士さんや司法書士さん、行政書士さんの専門家の力を借りて、漏れなく進めていくことが大切です。
⑤ 後継者自身の育成
甥っ子さんや姪っ子さんが経営者として成長していくためには、学び続ける姿勢が不可欠です。
- 経営者としての資質: 経営者には、リーダーシップ、決断力、コミュニケーション能力など、様々な資質が求められます。
- 外部の学びの機会: 経営塾やセミナーに参加したり、他の経営者との交流を通じて、視野を広げ、知識を深めることを応援してあげてください。
- 健康管理: 経営者は体が資本です。健康にも気を配るよう促してあげてください。
生命保険・医療保険の活用について
家業を継ぐということを考えると、生命保険や医療保険もとても重要になります。
1.生命保険:もしもの時の事業資金確保に
- 事業承継対策: 現在の経営者に万が一のことがあった場合、生命保険金があれば、相続税の納税資金や、事業を継続するための運転資金として活用できます。
- 後継者の保障: 甥っ子さんや姪っ子さんを被保険者(保険をかけられる人)として、彼らにもしものことがあった場合に備える保険も検討できます。特に、事業のキーパーソンとなる場合は重要です。
- 法人契約も視野に: 法人(会社)で生命保険に加入することも可能です。その場合、保険料が損金算入できるなど、税制上のメリットがある場合がありますので、税理士さんと相談してみてください。
2.医療保険:病気やケガで働けなくなった時の備え
- 経営者のリスクヘッジ: 後継者である甥や姪が病気やケガで入院したり、手術が必要になったりした場合、医療費の負担は大きくなります。医療保険があれば、自己負担額を抑え、安心して治療に専念できます。
- 長期療養への備え: もし長期にわたって働けなくなった場合、収入が途絶えることになります。就業不能保険なども検討し、事業の安定を保つための備えも大切です。
まとめ
家業を甥っ子さんや姪っ子さんに引き継がせることは、とても大きな決断であり、準備も多岐にわたります。
- 早めの準備が肝心: 相続や事業承継は、準備を始めるのが早ければ早いほど、選択肢が広がり、スムーズに進めることができます。
- 専門家との連携: 遺言書の作成、事業用資産の評価、税務対策、法的手続きなど、専門的な知識が必要な場面が多くあります。税理士さん、弁護士さん、司法書士さん、行政書士さん、そして保険の専門家など、信頼できる専門家チームと連携して進めていくことが成功の鍵になります。