甥や姪に遺産を遺すための遺言書と遺贈の基本
まず、結論から申し上げますと、甥や姪の方に確実に遺産を遺すためには、遺言書が必須となります。なぜなら、民法で定められている法定相続人には、基本的に甥や姪は含まれないからです。
甥や姪は法定相続人ではない?
ご自身の配偶者やお子さん、そしてご両親(直系尊属)、兄弟姉妹がいらっしゃる場合、甥や姪は原則として法定相続人にはなりません。
唯一の例外として、ご自身の兄弟姉妹がすでに亡くなっていて、その兄弟姉妹にお子さん(つまり甥や姪)がいる場合に限り、甥や姪が代襲相続人として法定相続人になります。
ですから、上記に当てはまらない場合は、遺言書を作成しないと、甥や姪に遺産を遺すことができません。
甥や姪に遺産を遺すための遺言書の種類と作成方法
甥や姪に遺産を遺すには、遺言書を作成することになりますが、遺言書にはいくつか種類があります。
1. 自筆証書遺言
ご自身で遺言書の全文を書き、署名、押印するものです。
メリット
- 費用がかからない
- いつでも手軽に作成できる
デメリット
- 形式不備で無効になるリスクがある
- 紛失や偽造のリスクがある
- 家庭裁判所での「検認」が必要になる
自筆証書遺言を作成する際の注意点
- 全文を自筆で書く:パソコンなどで作成したものは無効です。財産目録はパソコンで作成することも可能になりましたが、原則は全て手書きです。
- 日付を正確に書く:「〇年〇月吉日」などはNGです。具体的な日付を書きましょう。
- 氏名を署名し、押印する:実印でなくても構いませんが、シャチハタは避けましょう。
- 加筆・訂正は厳格なルールがある:もし間違えても修正液などを使わず、書き直す方が安全です。
自筆証書遺言の保管方法
紛失や偽造を防ぐために、法務局で「自筆証書遺言書保管制度」を利用することをおすすめします。法務局が保管してくれるので安心ですし、検認も不要になります。
2. 公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。証人2人以上の立ち会いが必要です。
メリット
- 形式不備で無効になる心配がない
- 公証役場で保管されるため、紛失や偽造の心配がない
- 検認が不要
デメリット
- 費用がかかる
- 証人が必要(ご家族やご友人に頼みにくい場合は、公証役場で紹介してもらうことも可能です)
公正証書遺言がおすすめのケース
遺言書の内容を確実に実現したいのであれば、費用はかかりますが公正証書遺言が最も安全で確実な方法です。特に、遺産の額が大きい場合や、相続人が多い場合、トラブルを避けたい場合には強くおすすめします。
遺贈の具体的な方法
甥や姪に遺産を遺すことを「遺贈(いぞう)」といいます。遺言書の中で、「〇〇(甥/姪の名前)に、私の〇〇(財産の具体名)を遺贈する」というように記載します。
遺贈には主に以下の2つの方法があります。
1. 特定遺贈
特定の財産を指定して遺贈する方法です。
例:「私の所有するAアパートを甥の〇〇に遺贈する。」 例:「私の預貯金の中から300万円を姪の△△に遺贈する。」
2. 包括遺贈
遺産の全部または割合を指定して遺贈する方法です。
例:「私の全財産の2分の1を甥の〇〇に遺贈する。」 例:「私の全財産を甥の〇〇に遺贈する。」
遺贈の注意点
- 遺贈を受ける甥や姪は、相続放棄ができないことに注意が必要です。もし、遺産よりも借金の方が多い「債務超過」の場合でも、遺贈を放棄しない限り、借金も引き継ぐことになってしまいます。
- 遺贈を受けた財産には、相続税がかかります。甥や姪は、配偶者や一親等の血族ではないため、相続税が2割加算されることになります。この点も考慮して、遺贈する金額や財産を決めるようにしましょう。
遺留分への配慮
「遺留分(いりゅうぶん)」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に法律で保証されている最低限の遺産の取り分です。
なぜ遺留分に配慮する必要があるの?
もし、遺言書で甥や姪に全ての遺産を遺すような内容にした場合、本来遺留分を持つ法定相続人(例えば配偶者やお子さん)が「遺留分侵害額請求」を行う可能性があります。この請求が認められると、甥や姪が受け取った遺産の中から、法定相続人に対して金銭を支払わなければならなくなる場合があります。
遺留分を侵害しないための対策
- 遺留分を侵害しない範囲で遺贈する 遺産全体の〇割は配偶者に、〇割はお子さんに、残りを甥や姪に、というように、遺留分を考慮した配分で遺言書を作成することが最も穏便な解決策です。
- 事前に話し合い、納得を得る もし特定の甥や姪に多くの遺産を遺したい強い希望がある場合は、事前に遺留分を持つ法定相続人と十分に話し合い、理解と納得を得ておくことが大切です。話し合いの結果、遺留分を放棄してもらうことも可能ですが、これは家庭裁判所の許可が必要になります。
- 付言事項(ふげんじこう)を記載する 遺言書には法的な効力はありませんが、ご自身の思いや、なぜ甥や姪に遺贈したいのかという理由などを記載する「付言事項」という欄を設けることができます。これにより、相続人間の争いを未然に防ぎ、円満な相続に繋がることもあります。付言事項の例: 「これまで私を支えてくれた甥の〇〇には、生前からの感謝の気持ちとして、この土地を遺贈することにしました。他の相続人には、この私の気持ちを汲み取っていただければ幸いです。」
生命保険と医療保険について
少し話は変わりますが、生命保険や医療保険も、相続対策として活用できる場合があります。
生命保険の活用
生命保険の受取人を甥や姪に指定することで、遺言書とは別に、直接甥や姪に死亡保険金を遺すことができます。
メリット
- 受取人固有の財産:死亡保険金は、原則として受取人の固有の財産となり、遺産分割協議の対象外となります。つまり、他の相続人との話し合いをすることなく、確実に指定した甥や姪に渡すことができます。
- 非課税枠の活用:法定相続人が受け取る死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠がありますが、甥や姪が受取人の場合はこの非課税枠は適用されません。しかし、相続税の申告が必要な場合は、他の遺産と合算されて課税対象となります。
注意点
- 生命保険契約の種類によっては、受取人の指定に制限がある場合があります。事前に保険会社に確認しましょう。
医療保険の活用
医療保険は、ご自身の医療費の備えであり、直接相続対策になるものではありません。しかし、医療費の心配がなくなることで、貯蓄を相続に回しやすくなるという間接的なメリットはあります。
まとめと今後のステップ
甥や姪に確実に遺産を遺すためには、
- 遺言書の作成が不可欠であること。
- 公正証書遺言が最も安全で確実な方法であること。
- 遺贈には特定遺贈と包括遺贈があり、それぞれに注意点があること。
- 遺留分への配慮が、後のトラブルを避けるために非常に重要であること。
- 生命保険も、甥や姪に財産を遺す有効な手段となりうること。
これらの点を理解していただけたでしょうか。
ご自身だけで全てを判断するのは大変なことですので、まずは専門家にご相談いただくことを強くおすすめします。
- 弁護士:遺言書の作成支援、遺留分に関する相談、相続全般のトラブル対応
- 司法書士:遺言書の作成支援、不動産の名義変更(相続登記)
- 税理士:相続税に関する相談、相続税申告