配偶者が認知症になったら?成年後見制度と相続対策

認知症の配偶者がいる場合の相続対策、成年後見制度、財産管理について

認知症の配偶者様がいらっしゃる状況での相続対策は、通常の相続とは異なる配慮が必要です。なぜなら、認知症の方は「意思能力」が低下しているため、ご自身で法的な契約行為(遺産分割協議など)を行うことが難しいからです。

1. 認知症の配偶者がいる場合の相続対策

まず、一番大切なのは、認知症の配偶者様がご存命のうちに、どのように財産を管理し、将来の相続に備えるかという点です。

(1)遺言書の重要性

  • なぜ必要? 認知症の配偶者様は、遺産分割協議に参加することができません。もし遺言書がないと、遺産分割協議が進まず、相続手続きが滞ってしまいます。
  • 誰が書くの? 認知症ではない、健康な方(主に財産を所有している方)が遺言書を作成することが重要です。
  • どんな内容?
    • 「誰に何を相続させるか」を具体的に明記します。
    • 例えば、「自宅は長男に、預貯金は妻に、といった形で明確に指定します。
    • 遺言書があれば、遺産分割協議なしで財産を分けることができるため、認知症の配偶者様がいてもスムーズに手続きを進められます。
  • 種類は?
    • 公正証書遺言: 公証役場で公証人が作成してくれるもので、一番確実で安全な方法です。費用はかかりますが、無効になるリスクが低いです。
    • 自筆証書遺言: ご自身で手書きする遺言書です。費用はかかりませんが、書き方に不備があると無効になったり、家庭裁判所の検認が必要になったりする場合があります。法務局での保管制度も利用できますが、専門家に相談することをお勧めします。

(2)生前贈与の検討

  • どんな時に考えるの? もし、ご自身の財産を特定の家族に渡したいと考えているのであれば、生前に贈与することも一つの方法です。
  • 注意点:
    • 贈与税がかかる場合があります。年間110万円までは非課税ですが、それ以上だと贈与税がかかります。
    • 将来の相続トラブルにならないよう、家族間でよく話し合い、理解を得ておくことが大切です。
    • 「夫婦間での居住用不動産の贈与の特例」など、特例を適用できる場合もあります。

(3)家族信託の検討

 家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理や処分を任せる仕組みです。

  • どんな時に役立つ?
    • 認知症になった後の財産管理をスムーズに行いたい場合。
    • 例えば、ご主人が元気なうちに、お子様に財産の管理を任せる契約を結んでおくことで、ご主人が認知症になった後も、お子様がご主人の財産を使って介護費用を支払ったり、不動産を売却したりすることが可能になります。
  • 注意点: 専門的な知識が必要なため、司法書士や弁護士に相談して慎重に進める必要があります。

2. 成年後見制度の利用方法

認知症の配偶者様が、ご自身の財産を管理したり、介護や医療に関する契約を結んだりすることが難しくなった場合に利用するのが「成年後見制度」です。

(1)成年後見制度とは?

  • 認知症などで判断能力が不十分になった方を保護し、支援するための制度です。
  • 家庭裁判所に申し立てをして、後見人(財産管理や介護・医療に関する手続きを行う人)を選任してもらいます。

(2)後見人になれる人

  • 親族(配偶者、子、兄弟姉妹など)がなることもできますが、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されることも多いです。
  • 家庭裁判所が、本人の利益を一番に考えて適任者を選びます。

(3)成年後見制度を利用するメリット

  • 財産が守られる: 後見人が、ご本人の財産を適切に管理し、無駄遣いや悪徳商法から守ってくれます。
  • 生活に必要な契約ができる: 介護サービスや医療に関する契約、施設の入所契約などを後見人が代わりに行うことができます。
  • 遺産分割協議に参加できる: 認知症の配偶者様が相続人になった場合、後見人が代わりに遺産分割協議に参加することができます。これにより、相続手続きを進めることが可能になります。

(4)成年後見制度を利用するデメリット・注意点

  • 費用がかかる: 専門家が後見人になった場合、毎月報酬を支払う必要があります。親族が後見人になった場合でも、場合によっては報酬が発生します。
  • 家庭裁判所の監督: 後見人は、定期的に家庭裁判所に報告義務があり、財産の使途などについてチェックが入ります。
  • 原則として途中でやめられない: 一度成年後見制度が開始すると、本人が判断能力を回復しない限り、原則として制度をやめることはできません。
  • 財産の使用制限: 後見人は本人の財産を「本人のため」に使うことが原則です。勝手に相続対策として贈与を行ったり、自宅を売却したりすることはできません。

(5)成年後見制度の申し立て方

  • 申立人(本人、配偶者、四親等内の親族など)が、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
  • 医師の診断書や戸籍謄本など、様々な書類が必要になります。
  • 手続きが複雑なため、弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。

3. 財産管理の注意点

認知症の配偶者様の財産管理は、特に慎重に行う必要があります。

(1)預貯金の管理

  • 名義変更は慎重に: 認知症の方の預貯金は、原則として本人以外は引き出すことができません。家族であっても、安易に名義を変更したり、暗証番号を共有したりすることは避けるべきです。不正利用と疑われる可能性があります。
  • 公共料金の引き落とし: 公共料金や介護費用などは、できるだけ本人の口座から引き落とされるように手続きしておくのが望ましいです。
  • 成年後見制度の利用も検討: 多額の預貯金があり、管理が難しい場合は、成年後見制度の利用を検討しましょう。

(2)不動産の管理

  • 売却や担保設定は後見人が必要: 認知症の方名義の不動産を売却したり、担保に入れたりするには、原則として成年後見人が必要になります。
  • 賃貸物件の場合: 賃料の回収や修繕の手配なども、判断能力が低下すると難しくなります。

(3)保険の見直し

  • 生命保険:
    • 被保険者・契約者が認知症の場合: 認知症の方が保険契約者である場合、保険料の支払い方法の変更や、契約内容の変更、解約などが難しくなります。もし生命保険の見直しを考えているなら、早めに行うことが大切です。
    • 受取人の確認: 生命保険の受取人が誰になっているかを確認しておきましょう。もし相続人が認知症の場合、受取人を変更することも検討が必要です。
  • 医療保険:
    • 認知症と診断された後の医療費や介護費用に備えるために、医療保険や介護保険の保障内容が適切か確認しておきましょう。
    • 公的介護保険サービスなども活用できるよう、情報収集も大切です。

(4)財産目録の作成

  • ご自宅にある現金、預貯金、不動産、有価証券、貴金属、骨董品、自動車、生命保険など、全ての財産を一覧にまとめた「財産目録」を作成しておきましょう。
  • どこに何があるか、誰が見ても分かるようにしておくことで、将来の相続手続きが格段にスムーズになります。

まとめ

認知症の配偶者様がいらっしゃる場合の相続対策は、時間との勝負になることもあります。

  1. ご自身(財産を所有している方)の遺言書作成が最も重要です。
  2. 財産管理が難しくなってきたら、成年後見制度の利用を検討しましょう。
  3. 日頃から、財産の状況を把握し、整理しておくことが大切です。
  4. 不安なことや分からないことがあれば、一人で抱え込まずに、早めに専門家(弁護士、司法書士、税理士など)に相談することを強くお勧めします。

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