まず、「遺贈(いぞう)」というのは、遺言によって特定の人に財産を贈ることです。配偶者への遺贈は、残された奥様(または旦那様)に、ご主人の想いを形として残したい場合にとても有効な方法です。
具体的な方法としては、主に以下の2つがあります。
- 特定遺贈(とくていいぞう): 「特定の財産」を指定して贈る方法です。例えば、「夫が所有する札幌市中央区の自宅不動産を妻〇〇に遺贈する」といった形です。 遺言書に財産を具体的に特定して記載する必要があります。不動産であれば地番や家屋番号まで正確に、預貯金であれば金融機関名、支店名、口座番号まで記載するとより確実です。
- 包括遺贈(ほうかついぞう): 「財産の割合」を指定して贈る方法です。例えば、「夫の財産の2分の1を妻〇〇に遺贈する」といった形です。 この場合、妻は相続人と同じように、夫の財産全体に対して指定された割合の権利を持ちます。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金など)も引き継ぐ可能性があるため、注意が必要です。
【遺言書の作成が必須!】 どちらの方法を選ぶにしても、必ず「遺言書」を作成する必要があります。遺言書がなければ、遺贈はできません。遺言書には、主に次の3種類があります。
- 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん): ご自身で全文を手書きし、日付と氏名を書いて押印する遺言書です。費用はかかりませんが、書き方に不備があると無効になってしまうリスクがあります。また、紛失や改ざんのリスクもあります。 最近では、法務局で保管してもらえる制度もできて、以前よりも安心できるようになりましたよ。
- 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん): 公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。費用はかかりますが、法律の専門家が関わるため、内容に不備がなく、紛失や改ざんのリスクも非常に低い安全な方法です。証人2名が必要になります。
- 秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん): 自分で作成した遺言書を封筒に入れ、公証役場で公証人と証人の前で封印してもらう遺言書です。内容を秘密にしたい場合に有効ですが、内容の不備による無効のリスクは残ります。
奥様への確実な遺贈を考えるなら、内容の不備がなく、保管も安心な「公正証書遺言」が一番おすすめです。
2. 遺贈と相続の違い
「遺贈」と「相続」、どちらも亡くなった方の財産を引き継ぐことですが、実は大きな違いがあります。
項目 | 遺贈(いぞう) | 相続(そうぞく) |
根拠 | 遺言書がある場合にのみ発生する | 法律で定められた相続人が財産を引き継ぐ |
財産を受け取る人 | 誰でも指定できる(法定相続人以外でもOK) | 法定相続人のみ(配偶者、子、親、兄弟姉妹など) |
マイナス財産 | 原則として引き継がない(包括遺贈の場合は引き継ぐ可能性がある) | 引き継ぐ(放棄の手続きをしない限り) |
手続き | 不動産の名義変更など、受遺者自身が手続きを進める | 相続人全員で遺産分割協議を行うのが一般的 |
遺留分 | 遺留分を侵害する可能性がある | 遺留分を侵害することはない(侵害されても請求権がある) |
【分かりやすく例えると…】
- 相続は、家族みんなで分け合う、お父さんの「普通預金」みたいなものです。法律で誰がどれくらい受け取るか決まっていて、みんなで相談して分けます。
- 遺贈は、お父さんが「この〇〇は、お母さんに贈るね」と、特別なプレゼントをあげるようなものです。遺言書というお手紙にそのことを書いておくことで、お父さんの特別な意思が実現します。
配偶者は法定相続人でもありますから、「相続」によって財産を受け取ることもできます。しかし、遺言書で「遺贈」という形をとることで、「この財産は、特に妻に遺したい」というご主人の強い意思を明確にすることができます。
特に、ご自宅など、配偶者に残したい特定の財産がある場合には、遺贈という形が非常に有効です。
3. 遺留分への配慮
遺贈を考える上で、絶対に忘れてはいけないのが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保証されている、最低限の遺産の取り分のことです。例えば、お子さんがいる場合、遺言書で「全財産を妻に遺贈する」と書かれていても、お子さんは「自分たちの遺留分を侵害されている」として、その侵害された分を請求する権利があるのです。
【遺留分が認められる法定相続人】
- 配偶者
- 子(代襲相続人を含む)
- 直系尊属(親や祖父母。子がいない場合に限る)
【遺留分の割合(原則)】
- 配偶者のみ、子のみ、直系尊属のみが相続人の場合:相続財産の2分の1
- 配偶者と子が相続人の場合:配偶者は相続財産の4分の1、子は相続財産の4分の1を全員で分ける
- 配偶者と直系尊属が相続人の場合:配偶者は相続財産の3分の1、直系尊属は相続財産の6分の1を全員で分ける
【遺留分への配慮の重要性】
もし、遺言書で配偶者への遺贈を優先しすぎて、他の相続人の遺留分を侵害してしまった場合、その相続人から「遺留分侵害額請求」という請求をされる可能性があります。
そうなると、残された配偶者は、せっかく遺贈された財産の一部を、他の相続人に現金で支払わなければならなくなるなど、思わぬトラブルに発展する可能性があります。
【具体的な配慮の仕方】
- 遺留分を考慮した遺贈の割合にする: 他の相続人の遺留分を侵害しないように、遺贈する財産の割合を調整します。これが一番穏便な方法です。
- 付言事項(ふげんじこう)で想いを伝える: 遺言書に、遺贈の理由や、残された家族への感謝の気持ちなどを記載する「付言事項」を設けることができます。これは法的な効力はありませんが、ご主人の想いを伝えることで、他の相続人の感情的な理解を得やすくなることがあります。
- 生命保険の活用: 遺留分の対策として、生命保険が有効な場合があります。特定の相続人(例えば遺留分があるお子さん)を生命保険の受取人に指定しておくことで、遺産とは別に、保険金という形でその相続人に財産を渡すことができます。保険金は原則として遺留分の対象とならないため、遺留分対策に活用されることがあります。
【専門家への相談を強くおすすめします!】
遺留分の計算や、それらを考慮した遺言書の作成は、非常に専門的な知識が必要です。ご自身で判断せずに、ぜひ一度、弁護士や司法書士といった法律の専門家、または税理士に相談されることを強くお勧めします。
専門家は、ご家族の状況や財産の内容を詳しくヒアリングし、最適な遺言書の内容を提案してくれます。また、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)の選任なども含めて、スムーズな手続きをサポートしてくれますよ。