相続税の税務調査ってどんな時に来るの?
まず、「どんな時に税務調査が来るの?」という疑問、当然ですよね。相続税の税務調査はすべてのご家庭で行われるわけではありません。税務署は、申告された内容や、過去の申告情報などから、「もしかしたら申告漏れがあるかもしれない」と判断した場合に調査に入ることが多いです。
具体的には、以下のようなケースで調査が行われやすいと言われています。
- 相続財産が多い場合: やはり財産が多いと、申告漏れの可能性も高くなると考えられがちです。
- 相続税の申告額が少ない、あるいはゼロの場合: 相続財産がそれなりにあるのに、申告額が極端に少なかったり、基礎控除以下で税金がかからないケースで、実は申告漏れがあるのでは?と疑われることがあります。
- 預貯金の出し入れが頻繁で高額な場合: 亡くなった方(被相続人)の生前の預貯金の動きが不自然に多い場合、贈与があったのに申告されていないのではないか、と見られることがあります。
- 不動産の評価が不自然な場合: 相続した土地や建物の評価額が、実勢価格と比べて極端に低い場合などです。
- 過去に税務調査を受けている場合: 以前にも税務調査を受けたことがあり、その時に問題があったようなケースだと再度の調査対象になりやすい傾向があります。
- 富裕層の情報: 税務署はさまざまな情報網を持っています。例えば、高額納税者の情報や、不動産登記情報などから相続財産を把握している場合もあります。
- 名義預金が疑われる場合: 亡くなった方の名義ではないけれど実質的には亡くなった方の財産であった「名義預金」が疑われるケースです。例えば、夫の稼ぎで妻や子どもの名義で預金していたような場合ですね。
相続税の申告があったうち、5件に1件くらいの割合で税務調査が行われていると言われています。
税務調査では何を調べられるの?
実際に税務調査が入った場合どんなことを調べられるのでしょうか?主な調査内容は以下の通りです。
- 相続財産の網羅性:
- 預貯金: 亡くなった方の銀行口座はもちろん、ご家族の口座、特に名義預金が疑われる口座の動きを詳しく見られます。生前の高額な引き出しや、不明な入金がないかなどもチェックされます。
- 不動産: 土地や建物だけでなく、賃貸マンションやアパートなども含めて、漏れなく申告されているかを確認されます。固定資産税の課税状況なども参考にされます。
- 有価証券: 株や投資信託など、証券会社との取引履歴を確認されます。
- 貴金属・骨董品: 高額な宝飾品や美術品、骨董品なども評価対象になります。
- 生命保険金・退職金: みなし相続財産として課税対象となるため漏れなく申告されているか確認されます。
- 債務・葬式費用: 借金や未払金、葬式費用など、控除できるものが正しく計上されているかも確認されます。
- 生前贈与の有無:
- 亡くなった方が生前に、ご家族などに贈与をしていた場合、それが適切に申告されているかを確認されます。特に、「暦年贈与」として毎年少額ずつ贈与していたつもりが、贈与契約書などの証拠がなく名義預金と判断されてしまうケースもあります。
- 預貯金の出し入れ履歴から、特定の個人への高額な資金移動がないかなどをチェックされます。
- 相続開始前の財産移動:
- 相続開始前3年以内(令和6年からは7年以内)に被相続人から贈与された財産は、相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。これが正しく計上されているかを確認されます。
- その他:
- ご家族の生活状況や、収入源と支出のバランスなども聞かれることがあります。例えば、収入に対して預金が多すぎる場合などは、別の財産が隠されているのではないか、と疑われることもあります。
税務調査は、基本的に2日間程度かけて行われることが多いです。税務署の担当官が自宅に来て、関係書類を確認したり質問をしたりします。
税務調査の事前の準備が大切!
税務調査は突然やってくるわけではありません。通常は、事前に税務署から電話連絡があり、日時を調整することになります。この連絡があったら、慌てずにしっかりと準備を進めることが大切です。
1. 関係書類の整理・確認:
- 通帳(銀行、証券会社など): 亡くなった方だけでなく、相続人全員の過去10年分くらいの通帳を確認しておくと安心です。特に、生前の入出金で高額なものや、不自然なものがないかチェックしましょう。
- 不動産の権利証、固定資産税納税通知書: 相続した不動産に関する書類は全て揃えておきましょう。
- 生命保険証券、保険金支払通知書: 生命保険に加入していた場合は必ず確認します。
- 有価証券関係書類: 株や投資信託の取引報告書、残高証明書など。
- 贈与契約書: 生前贈与を行っていた場合は必ず保管しておきましょう。
- 確定申告書: 亡くなった方の過去の確定申告書があれば確認します。
- 遺言書、遺産分割協議書: 相続の全体像を把握するために必要です。
- 葬儀費用の領収書: 葬式費用は相続財産から控除できますので漏れなく集めておきましょう。
2. 家族会議を開く:
- 相続人全員で相続財産について話し合い、認識を共有しておくことが大切です。特に、生前の贈与や名義預金について、心当たりがある場合は正直に話し合いどう説明するか決めておきましょう。
- 不明な点があれば、この段階で税理士に相談することをお勧めします。
3. 想定問答集の作成:
- 税務調査で聞かれそうなことを事前にリストアップし回答を準備しておくと安心です。
- 「故人の預金から高額な引き出しがありますが、何に使いましたか?」
- 「この財産はどのように取得しましたか?」
- 「生前、ご家族への贈与はありませんでしたか?」
- 「故人の収入に対して預金残高が多いように見えますが、何か他に収入源がありましたか?」 など、聞かれそうな質問を具体的に想定してみましょう。
4. 自宅の整理整頓:
- 調査官が自宅を訪問する場合、乱雑な部屋だと印象が悪くなることもあります。できる限り整理整頓しておきましょう。特に、金庫や引き出しの中など、財産に関わるものは整理しておくと良いです。
税務調査への対応策
いざ税務調査が始まったら、以下の点に注意して対応しましょう。
- 冷静に対応する:
- 調査官はあくまで職務として調査を行っています。感情的にならず、冷静に、誠実に対応することが大切です。
- 聞かれたことだけ答える:
- 必要以上にべらべらと話したり、余計な情報を与えたりしないようにしましょう。聞かれたことに対して、簡潔に、正確に答えることが重要です。
- 分からないことは正直に伝える:
- 分からないことを適当に答えるのは避けましょう。「分かりません」「確認します」と正直に伝えることが大切です。後日、確認して連絡するという形でも問題ありません。
- 虚偽の申告は絶対にしない:
- 嘘をついたりごまかしたりするのは絶対にやめましょう。虚偽の申告が発覚した場合、重加算税などの重いペナルティが課せられる可能性があります。
- 書類をきちんと提示する:
- 求められた書類はすぐに提示できるように準備しておきましょう。
- 専門家(税理士)に立ち会ってもらう:
- 税務調査は税金の専門知識がないと非常に難しいものです。相続税に詳しい税理士に立ち会ってもらうことで安心して対応できます。税理士は税務調査官とのやり取りをスムーズに進めたり、不必要な質問を遮ったり、適切なアドバイスをしてくれたりします。これが一番の対応策と言えるでしょう。
- 事前の準備段階から税理士に相談しておけば、より万全な対策が立てられます。
生命保険・医療保険の重要性
少し話は変わりますが、生命保険や医療保険も、相続対策において非常に重要な役割を果たします。
- 生命保険:
- 納税資金の確保: 生命保険金は、受取人固有の財産とされ、相続税の計算上、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。この非課税枠を活用することで、納税資金を準備することができます。急な相続税の支払いにも、保険金があれば慌てずに対応できますね。
- 遺族の生活保障: 亡くなった方の収入が途絶えた後の、残されたご家族の生活を支える大切な資金にもなります。
- 争続対策: 特定の相続人に生命保険金を受け取らせることで、遺産分割協議とは別に、その相続人に確実に財産を渡すことができます。
- 医療保険:
- 生前の医療費の負担を軽減し、相続財産が不必要に減るのを防ぐことができます。亡くなった方が高額な医療費を支払った場合でも、医療保険があれば家計への負担を抑えられます。
相続税対策として、生前に生命保険を活用することは非常に有効な手段の一つです。ご自身の状況に合わせて、適切な保険を選ぶことが大切ですね。
まとめ
相続税の税務調査は、決して珍しいことではありません。しかし、事前にしっかりと準備をして、誠実に対応すれば、恐れることはありません。
- 不明な点や不安な点があれば、まずは相続に詳しい税理士に相談することをお勧めします。
- 税理士は、適切な申告書の作成はもちろん、税務調査への対応もサポートしてくれます。