甥や姪が認知症の場合の相続手続き

認知症の甥・姪が相続人となる場合の成年後見制度と財産管理の注意点

1. 認知症の甥・姪が相続人になるケースって?

まず、どのような場合に甥御さんや姪御さんが相続人になるのか確認しておきましょう。

  • 亡くなった方に、お子さんや配偶者がいない場合:この場合、亡くなった方の親御さんが相続人になります。
  • 亡くなった方に、お子さんや配偶者がおらず、親御さんもすでに他界している場合:この場合、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。
  • 亡くなった方に、お子さんや配偶者がおらず、親御さんも他界し、さらに兄弟姉妹もすでに他界している場合:この場合に、亡くなった方の兄弟姉妹のお子さん、つまり甥御さんや姪御さんが相続人になります。これを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」と言います。

今回のケースは、この「甥御さん・姪御さんが相続人になる」という状況です。

2. 成年後見制度って、どんな制度?

成年後見制度というのは、「認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な方のために、その方を法的に支援し、財産を守る制度」のことです。

もし、相続人である甥御さんや姪御さんが認知症で、ご自身で物事を判断したり、財産を管理したりすることが難しい場合、そのままでは相続の手続きを進めることができません。例えば、遺産分割協議(相続人全員で誰が何をどれくらい相続するか話し合うこと)に参加することも難しいでしょう。

そこで、成年後見制度を利用して、甥御さん・姪御さんの代わりに、その方の財産を守り、法的な手続きを進めてくれる人(成年後見人)を選任してもらうのです。

成年後見制度の種類

大きく分けて2つの種類があります。

  • 法定後見制度(ほうていこうけんせいど)
    • すでに判断能力が不十分な方が対象です。
    • 家庭裁判所が、ご本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐(ほさ)」「補助(ほじょ)」の3つの区分に分けて、後見人などを選任します。
    • 「後見」が一番判断能力が不十分な方が対象で、成年後見人という人がほぼすべての法律行為を代理したり、同意したりします。
    • 相続のケースでは、この法定後見制度を利用することが多いです。
  • 任意後見制度(にんいこうけんせいど)
    • まだ判断能力がしっかりしているうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめご自身で「この人に後見人をお願いしたい」と決めておく制度です。
    • 公証役場で「任意後見契約」を結んでおきます。
    • 今回のケースのように、すでに認知症になっている場合は利用できません。

3. 成年後見制度を利用しないとどうなるの?

もし、認知症の甥御さんや姪御さんがいるのに成年後見制度を利用しないと、以下のような困ったことが起こります。

  • 遺産分割協議ができない:相続人全員の合意がないと遺産分割はできません。認知症で判断能力がない方は、法的に有効な意思表示ができないため、遺産分割協議に参加できません。結果として、遺産分割協議書を作成できず、相続手続きがストップしてしまいます。
  • 相続財産を処分できない:不動産の名義変更や預貯金の引き出しなどができなくなります。
  • 不要なトラブルに発展する可能性:他の相続人が、判断能力が不十分な方を言いくるめて不利な内容で遺産分割を進めようとするなど、不正が行われるリスクもあります。成年後見人は、ご本人の利益を最優先に考えて行動するので、このような不正から守ってくれます。

4. 成年後見制度の利用方法(簡単な流れ)

  1. 申立て(もうしたて):ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。申立てができるのは、ご本人、配偶者、四親等内の親族(兄弟姉妹、甥姪、叔父叔母など)などです。
  2. 調査・鑑定(かんてい):家庭裁判所が、ご本人の判断能力の程度などを調査します。必要に応じて、医師による鑑定が行われることもあります。
  3. 審判(しんぱん):家庭裁判所が、成年後見人等を選任し、その旨を決定します。成年後見人には、親族がなることもできますが、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることも多いです。
  4. 成年後見開始の登記(とうき):成年後見人が選任されたことは、登記され、誰でも確認できるようになります。

費用について:申立てには収入印紙代や郵便切手代がかかります。また、医師の鑑定費用や、もし専門家が後見人に選任された場合は、その報酬も発生します。

5. 財産管理の注意点

成年後見人が選任された後、その成年後見人が認知症の甥御さん・姪御さんの財産を管理することになります。いくつか注意点があります。

  • 後見人は「ご本人のため」に財産を管理する
    • 成年後見人は、あくまでも「ご本人の利益」を最優先に考えて財産を管理します。
    • 他の相続人や、ご本人以外の親族の都合の良いように財産を使うことはできません。
    • 例えば、他の相続人が「甥・姪の相続分から、自分の介護費用を補填してほしい」とお願いしても、後見人はそれを認めません。
  • 財産の透明性(とうめいせい)
    • 後見人は、財産目録を作成し、家庭裁判所に定期的に報告する義務があります。
    • ご本人の財産がどのように管理されているか、明確にされるということです。
  • 使い込みの防止
    • 成年後見人が選任されることで、ご本人の財産が適切に管理され、不当な使い込みや不正行為から守られます。
    • これは、他の相続人にとっても安心できる点ですね。
  • 遺産分割協議への参加
    • 成年後見人は、ご本人に代わって遺産分割協議に参加します。
    • ただし、成年後見人自身も相続人である場合(例えば、甥御さんの親が後見人になる場合など)は、「特別代理人」という別の人が選任されて、遺産分割協議に参加することもあります。これは、利益相反(後見人自身の利益と、ご本人の利益がぶつかること)を防ぐためです。

6. 生命保険や医療保険について

相続手続きとは少し異なりますが、成年後見制度と関連して、生命保険や医療保険についても触れておきましょう。

  • 生命保険金
    • もし、亡くなった方が生命保険に加入していて、受取人が認知症の甥御さん・姪御さんになっていた場合、保険金はご本人に支払われます。
    • しかし、ご本人が認知症で受け取り手続きができない場合、成年後見人が選任されていれば、その方が代わりに保険金を受け取ることができます。
    • 保険金は、ご本人の生活費や医療費などに充てられます。
    • 生命保険金は、原則として相続財産ではありませんので、遺産分割協議の対象にはなりません(ただし、相続税の計算上は「みなし相続財産」としてカウントされることがあります)。
  • 医療保険
    • 認知症の甥御さん・姪御さんが医療保険に加入している場合、病気やケガで入院・手術をした際の給付金も、成年後見人が代わりに請求・受領し、ご本人の医療費などに充てることになります。
    • 成年後見制度は、ご本人の医療費の支払いなど、日々の生活に関わる財産管理も行ってくれるので、とても心強い存在です。

まとめ

認知症の甥御さんや姪御さんが相続人となる場合、相続手続きをスムーズに進め、ご本人の財産をしっかりと守るためには、成年後見制度の利用が不可欠です。

成年後見人は、ご本人の利益を最優先に考え、法的な手続きや財産管理を代行してくれます。他の相続人の方々も、ご本人のために、この制度の利用を検討してあげてください。

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