配偶者への贈与における非課税枠の利用方法、特例、注意点
配偶者への贈与には、大きく分けて2つの非課税枠があります。
- 暦年贈与の基礎控除
- 夫婦間贈与の特例(居住用不動産の贈与の特例)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 暦年贈与の基礎控除
これは、贈与税の基本的な非課税枠です。
- どんなもの?:1月1日から12月31日までの1年間にもらった贈与の合計額が110万円までなら、贈与税はかかりません。これは、誰から誰へ贈与しても適用される、贈与税の「基礎」となる非課税枠です。
- 配偶者への利用方法:例えば、毎年配偶者の方に110万円ずつ贈与していくことで、贈与税をかけずに少しずつ財産を移していくことができます。
- 注意点:
- 毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると「定期贈与」とみなされる可能性:税務署から「最初から〇年間にわたって、毎年この金額を贈与するつもりだったでしょう?」と見なされると、贈与の総額に対して税金がかかってしまうことがあります。これを避けるためには、毎年贈与の時期や金額を少し変えたり、贈与契約書をきちんと作成したりすることが大切です。
- 複数の人からの贈与の合計額:1年間に配偶者以外の人からも贈与を受けた場合、それらの合計額が110万円を超えると贈与税がかかります。
2. 夫婦間贈与の特例(居住用不動産の贈与の特例)
これは、配偶者への贈与に特化した、とっても大きな非課税枠です。通称「おしどり贈与」とも呼ばれます。
- どんなもの?:婚姻期間が20年以上のご夫婦の間で、居住用の不動産(自宅など)や、居住用不動産を購入するための金銭を贈与する場合、2,000万円までなら贈与税がかかりません。さらに、先ほどの暦年贈与の基礎控除110万円と合わせると、合計で2,110万円まで非課税で贈与できます。
- 利用できる条件:
- 婚姻期間が20年以上であること。
- 贈与される財産が、居住用の土地や建物、またはそれを取得するための金銭であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その贈与された不動産に住み始め、その後も住み続ける見込みであること。
- この特例は、同じ夫婦の間では一生に一度しか使えません。
- 利用方法:
- 夫が持っている自宅の土地・建物の名義を妻に移す場合。
- 夫が妻に自宅購入資金としてお金を贈与する場合。
- 注意点:
- 必ず申告が必要:この特例を利用する場合は、贈与税がかからなくても、税務署へ贈与税の申告書を提出する必要があります。
- 共有名義にする場合も有効:例えば、夫が持っている自宅を、夫と妻の共有名義にする場合もこの特例を使えます。
- 相続開始前3年以内の贈与:暦年贈与と異なり、この特例を使って贈与した財産は、贈与した人が亡くなった場合でも相続財産に持ち戻して相続税の計算をすることはありません。つまり、確実に贈与が完了する、というメリットがあります。
贈与税を抑えるポイント
ここからは、贈与税を効果的に抑えるためのポイントをいくつかご紹介しますね。
- 暦年贈与を計画的に利用する
- 毎年110万円の基礎控除を最大限に活用し、時間をかけて少しずつ財産を移転していきます。
- 「毎年あげる」という意思が固まりすぎないようにする:贈与契約書を毎年作成し、その年の贈与はその年限りである旨を明記するなど、定期贈与とみなされないような工夫をしましょう。贈与の時期や金額を毎年少しずつ変えるのも有効です。
- 贈与されたお金の管理:贈与された側(もらった側)が、そのお金を自由に使える状態にしておくことが重要です。もらったお金を贈与した人が管理していると、贈与が成立していないとみなされる可能性があります。
- 夫婦間贈与の特例(おしどり贈与)を有効活用する
- 自宅の所有権を移したい、または自宅購入資金を配偶者に贈与したいと考えている場合は、この特例を積極的に検討しましょう。2,110万円という大きな非課税枠は、非常に魅力的です。
- 将来の相続税対策として、配偶者の財産を増やすことは、結果的に夫婦全体の相続税負担を軽減することにもつながります。
- 相続時精算課税制度の活用も検討する
- これは、原則60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与に使える制度ですが、場合によっては配偶者の親から配偶者への贈与などで検討することもあります。
- 贈与時に一定の非課税枠(2,500万円)があり、贈与税がかかりませんが、贈与した人が亡くなった時に、その贈与された財産を相続財産に加えて相続税を計算する制度です。
- 将来的に相続税がかかる見込みがある場合や、まとまった金額を一度に贈与したい場合に有効ですが、一度選択すると暦年贈与に戻れないなどの注意点もあります。
- 贈与契約書を作成する
- どのような贈与を行う場合でも、贈与契約書を作成することをおすすめします。口約束ではなく、書面にしておくことで、贈与の事実を明確にし、後々のトラブルや税務署からの指摘を防ぐことができます。
- 特に高額な贈与や不動産の贈与の場合は、司法書士や税理士などの専門家と一緒に作成すると安心です。
- 生命保険の活用
- これは直接的な贈与ではありませんが、相続税対策として有効な手段の一つです。
- 生命保険には「死亡保険金は相続財産ではない」という特別な非課税枠があります(500万円 × 法定相続人の数)。
- 例えば、夫が契約者・被保険者で、妻が受取人の生命保険に入っていれば、夫が亡くなった際に妻が受け取る保険金は、一定額まで非課税となり、妻の今後の生活資金にもなりますし、相続税対策にもなります。
- また、妻が契約者となり、夫を被保険者とする生命保険に加入し、保険料を妻の固有の財産(贈与されたお金など)で支払うことで、保険金が妻の固有の財産となり、夫の相続財産から外れるというメリットもあります。
まとめ
配偶者への贈与は、非課税枠を上手に使うことで、大きな税金対策になります。
- 毎年少しずつ贈与するなら暦年贈与の基礎控除(110万円)。
- 自宅や自宅購入資金を贈与するなら夫婦間贈与の特例(2,000万円+基礎控除110万円)。
この2つをうまく組み合わせることで、配偶者の方へ効率的に財産を移すことができます。
ただ、贈与は一度行うと取り消しが難しく、税法も複雑な部分があります。ご自身の状況に合わせて、どの方法が一番良いのか、専門家(税理士や司法書士など)に相談されることを強くお勧めします。