亡くなった直後から葬儀、相続手続きまでの具体的なリストと注意点
まずは全体像を把握できるよう、亡くなった直後から相続手続き完了までの流れを大きく3つのフェーズに分けてご説明します。
- 逝去直後~葬儀前日:臨終から葬儀の準備まで
- 葬儀当日~四十九日:葬儀と一段落するまで
- 四十九日以降:相続手続きの本格化
それぞれのフェーズでやるべきことと注意点を詳しく見ていきましょう。
フェーズ1:逝去直後~葬儀前日:臨終から葬儀の準備まで
この時期は、悲しみの中でも冷静に、しかし迅速に対応が求められることが多いです。
【やるべきことリスト】
- 医師による死亡確認と死亡診断書の受領
- 病院で亡くなった場合は、担当医が死亡を確認し、「死亡診断書」を発行してくれます。
- 自宅で亡くなった場合は、かかりつけ医がいる場合は連絡し、診てもらいましょう。かかりつけ医がいない場合は、救急車を呼ぶのではなく、警察に連絡して「検視」を受ける必要があります。これは事件性の有無を確認するためで、決してご家族が疑われているわけではありません。警察が検視後、「死体検案書」が発行されます。
- 注意点: 死亡診断書(または死体検案書)は、その後の火葬許可証や死亡届の提出、生命保険の請求などに必要となる大変重要な書類です。必ず複数枚コピーを取っておきましょう。
- ご遺体の搬送と安置
- 病院で亡くなった場合、霊安室の利用時間には限りがありますので、速やかにご遺体を搬送する必要があります。
- 自宅に搬送するか、葬儀社の提携する安置施設に搬送するかを決めます。
- 注意点: 信頼できる葬儀社を事前に決めておくか、病院で紹介された葬儀社に依頼することになります。複数社から見積もりを取り、比較検討する時間はありませんので、後悔しないためにも、もしもの時に備えて葬儀社を検討しておくと良いでしょう。
- 親族・関係者への連絡
- まずは、配偶者、お子様など、一番近しいご家族に連絡します。
- 次に、故人のご両親、ご兄弟姉妹、そしてご自身の親族、故人の特に親しかった友人・知人などへ連絡します。
- 連絡事項: 故人が亡くなったこと、今後の連絡は改めて行うことなどを簡潔に伝えます。この時点では葬儀の日程などは未定でも構いません。
- 注意点: 連絡の範囲は、後々トラブルにならないよう、ご家族でよく話し合って決めましょう。
- 葬儀社の選定と打ち合わせ
- ご遺体の搬送・安置を依頼した葬儀社と、そのまま葬儀の打ち合わせを進めることが多いです。
- 葬儀の規模(家族葬、一般葬など)、予算、宗派、日程、会場などを決めます。
- 注意点: 葬儀費用は高額になることが多いので、見積もりをしっかり確認し、不明な点は納得いくまで質問しましょう。追加料金が発生しないかどうかも確認が重要です。故人の遺志や、家族の意向を最優先に考えましょう。
- 死亡届の提出と火葬許可証の取得
- 死亡を知った日から7日以内に、市区町村役場に「死亡届」を提出する必要があります。通常は、死亡診断書(または死体検案書)の「死亡届」と一体になっている用紙を使います。
- この手続きは、多くの場合、葬儀社が代行してくれます。
- 死亡届が受理されると、「火葬許可証」が発行されます。これは火葬を行うために必要な書類です。
- 注意点: 死亡届の提出期限は厳守です。火葬許可証がないと火葬ができませんので、葬儀社に任せる場合でも、手続きが確実に行われているか確認しましょう。
フェーズ2:葬儀当日~四十九日:葬儀と一段落するまで
葬儀が終わると、少し落ち着きを取り戻せるかもしれませんが、まだまだ手続きは続きます。
【やるべきことリスト】
- 葬儀の執行
- 葬儀社の指示に従い、滞りなく葬儀を執り行います。
- 参列者への挨拶、お香典の受領、供花の管理など、葬儀社と協力して進めます。
- 注意点: 精神的にも肉体的にも負担が大きい時期です。無理せず、周りのサポートも借りながら乗り切りましょう。
- 香典の整理と香典返しの手配
- お香典は、後で整理しやすいように、誰からいくらいただいたか記録しておきましょう。
- 香典返しは、四十九日の法要後、または忌明け後1ヶ月以内に行うのが一般的です。半返し(いただいた金額の半分程度)が目安とされています。
- 注意点: 香典帳は、後々の香典返しの際に必要になりますので、丁寧に記録します。
- 埋葬許可証の保管
- 火葬が済むと、火葬許可証に「火葬執行済」の印が押され、「埋葬許可証」となります。
- この埋葬許可証は、お墓に納骨する際に必要になりますので、大切に保管しておきましょう。
- 注意点: 紛失すると再発行に手間がかかります。
- 関係各所への死亡連絡(死亡診断書・死亡届提出以外の連絡)
- 故人が加入していた生命保険会社、医療保険会社、年金事務所、銀行、証券会社、クレジットカード会社、携帯電話会社、電力会社、ガス会社、水道会社、固定電話会社、NHK、勤務先、賃貸物件の大家さんなど、関係する全ての機関に死亡の事実を連絡する必要があります。
- 注意点: 連絡が遅れると、余計な費用が発生したり、トラブルの原因になったりすることがあります。故人の手帳や財布、郵便物などを確認し、洗い出しを行いましょう。
- 生命保険・医療保険の請求手続き
- 故人が加入していた生命保険や医療保険の保険証券を確認し、速やかに保険会社に連絡して請求手続きを進めます。
- 必要書類: 死亡診断書(コピー)、保険証券、被保険者の住民票、受取人の印鑑証明書など、保険会社によって異なりますので、確認が必要です。
- 注意点: 保険金には請求期限がありますので、忘れずに手続きしましょう。保険金は、税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象になる場合があります。非課税枠もありますので、専門家にご相談ください。
- 世帯主変更届の提出(必要な場合)
- 故人が世帯主であった場合、世帯主が変更になった日から14日以内に、お住まいの市区町村役場に「世帯主変更届」を提出する必要があります。
- 注意点: 住民票の写しなどを取得する際に世帯主の情報が必要になることがあります。
- 住民票の抹消(原則不要)
- 死亡届が提出されると、住民票は自動的に抹消されます。特に手続きは不要です。
- 故人宛ての郵便物の転送手続き
- 郵便局に「転居・転送サービス」の届出をすることで、故人宛ての郵便物を一定期間、ご自身の住所に転送してもらえます。
- 注意点: 相続に関する重要な書類が届く可能性がありますので、早めに手続きすることをおすすめします。
- 公的年金の手続き
- 故人が年金受給者だった場合、年金の受給停止手続きが必要です。死亡後10日以内(国民年金)または14日以内(厚生年金)に年金事務所または年金相談センターに「年金受給権者死亡届」を提出します。
- 遺族年金の受給資格がある場合は、同時に請求手続きを進めます。
- 注意点: 手続きが遅れると、年金を不正受給したとみなされ、返還を求められることがあります。
- 遺言書の有無の確認
- 故人が遺言書を残している可能性があるため、自宅、貸金庫、公正証書遺言の場合は公証役場などで確認します。
- 注意点: 自筆証書遺言の場合、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります。勝手に開封したり、書き換えたりすることはできません。
- 遺品の整理
- 故人の部屋や持ち物の整理を始めます。思い出の品々を整理するのは大変辛い作業ですが、少しずつでも進めましょう。
- 注意点: 貴重品や重要書類、契約書などが紛れていないか慎重に確認します。
フェーズ3:四十九日以降:相続手続きの本格化
四十九日を過ぎると、相続に関する本格的な手続きが始まります。この段階からは、専門家のサポートも視野に入れると良いでしょう。
【やるべきことリスト】
- 相続人の確定(戸籍謄本の収集)
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸本を市区町村役場で取得し、法定相続人を確定させます。
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票も必要になります。
- 注意点: 相続人が増えたり、思わぬ人が相続人になったりするケースもあります。複雑な場合は司法書士や弁護士に依頼することをおすすめします。
- 相続財産の調査と評価
- プラスの財産: 預貯金、不動産、有価証券(株式・投資信託)、自動車、貴金属、骨董品、ゴルフ会員権など
- マイナスの財産: 借金、未払いの税金、未払いの医療費、保証債務など
- これらを全て洗い出し、評価額を算出します。
- 注意点: 故人の通帳履歴や郵便物、金庫の中身などをくまなく確認し、隠れた財産や負債がないか注意深く調べましょう。財産が多い場合は、税理士に相談して正確な評価をしてもらうことをおすすめします。
- 相続方法の決定(相続放棄・限定承認・単純承認)
- 相続財産を調査した結果、マイナスの財産が多い場合は、相続放棄(故人の財産も負債も一切相続しない)や限定承認(故人の負債は、故人の財産の範囲内で支払う)を検討することができます。
- 相続放棄・限定承認は、原則として相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
- プラスの財産が多い場合や、期限内に手続きをしない場合は、単純承認(故人の財産も負債も全て相続する)となります。
- 注意点: 3ヶ月という期間はあっという間に過ぎます。相続財産の調査は迅速に行いましょう。判断に迷う場合は、弁護士に相談してください。
- 遺産分割協議と遺産分割協議書の作成
- 遺言書がない場合、相続人全員で話し合い、誰がどの財産を相続するかを決めます。これを「遺産分割協議」と呼びます。
- 協議がまとまったら、「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名・捺印(実印)します。この書類は、預貯金の解約や不動産の名義変更に必要になります。
- 注意点: 相続人の中に未成年者がいる場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。相続人同士で意見がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判に進むこともあります。
- 各種財産の名義変更・解約手続き
- 預貯金: 遺産分割協議書(または遺言書)、故人の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などを持って、金融機関で解約または名義変更の手続きを行います。
- 不動産: 法務局で、故人から相続人への所有権移転登記(名義変更)を行います。登録免許税がかかります。
- 有価証券: 証券会社で名義変更や売却手続きを行います。
- 自動車: 運輸局で名義変更手続きを行います。
- 注意点: 必要な書類は金融機関や登記の種類によって異なります。事前に確認し、不足がないように準備しましょう。
- 相続税の申告と納付
- 相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合、相続税が発生します。
- 相続発生を知った日の翌日から10ヶ月以内に、税務署に相続税の申告と納税が必要です。
- 注意点: 相続税の計算は複雑であり、各種特例(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など)を適用することで税額を大幅に抑えられる場合があります。申告漏れや誤りがあると、追徴課税の対象になることもありますので、税理士に依頼することを強くお勧めします。
- 準確定申告(必要な場合)
- 故人が亡くなった年に、所得税の確定申告が必要な所得(事業所得、不動産所得など)があった場合、相続人が故人に代わって所得税の確定申告を行う必要があります。これを「準確定申告」と呼びます。
- 故人の死亡を知った日の翌日から4ヶ月以内に税務署に申告・納税します。
- 注意点: 会社員で年末調整を受けているだけの場合は不要ですが、個人事業主だった場合などは必要になります。
生前分与と法律について
生前分与とは? 生前分与とは、亡くなる前に財産を特定の人に贈与することです。これは相続争いを防ぎ、特定の相続人に財産を残したい場合に有効な手段です。
- メリット: 相続争いを未然に防げる可能性がある、特定の相続人に確実に財産を渡せる、贈与する財産を自由に決められる。
- デメリット: 贈与税が発生する可能性がある(年間110万円の基礎控除を超える場合)、暦年贈与の特例や相続時精算課税制度など、複雑な税法が絡む。
法律について 相続に関する法律は「民法」に定められています。特に「相続法」に関する部分は、相続の順位や遺留分(法定相続人に最低限保障されている相続分)などが定められています。
- 遺留分: 兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺留分という最低限相続できる権利があります。例えば、遺言書で全ての財産を一人に集中させても、他の相続人は遺留分を主張することができます。
- 公正証書遺言: 公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。形式の不備で無効になる心配がなく、紛失の心配も少ないため、最も確実な遺言書と言えます。
注意点: 生前分与は、相続税対策として有効な場合もありますが、贈与税や相続税の専門知識が必要です。安易に行うと、かえって税金が高くなったり、他の相続人との間でトラブルになったりする可能性があります。
生命保険、医療保険について
生命保険
- 死亡保険金: 死亡診断書(または死体検案書)があれば、速やかに保険会社に請求できます。保険金は原則として受取人の固有財産となるため、相続財産には含まれませんが、相続税の計算上は「みなし相続財産」として課税対象になります。ただし、非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)があります。
- 相続対策としての生命保険:
- 納税資金の確保: 相続税は現金一括払いが原則ですが、不動産など換金しにくい財産が多い場合、死亡保険金で納税資金を確保できます。
- 遺産分割対策: 特定の相続人に現金で財産を渡したい場合などに有効です。
- 非課税枠の活用: 上記の非課税枠を利用することで、相続税を節税できます。
医療保険
- 入院給付金・手術給付金: 故人が生前、入院や手術をしていたが請求していなかった場合は、相続人が請求できることがあります。
- 死亡後に医療費が未払いだった場合: 故人の未払い医療費は、相続財産から支払うことになります。
注意点: 保険契約の内容は非常に多岐にわたります。どの保険に加入していたか、誰が受取人になっているかなどを確認し、不明な点は保険会社に問い合わせましょう。保険金請求には期限があることが多いので、早めに手続きすることが重要です。
最後に
大切な方を亡くされた直後は、心身ともに疲弊していることと思います。このリストはあくまで一般的なものであり、個々の状況によって必要な手続きは異なります。
ご自身だけで全てを抱え込まず、信頼できるご家族や友人、そして必要であれば弁護士、税理士、司法書士などの専門家を頼ってください。特に相続は専門知識が必要となる場面が多く、早めに専門家と連携することで、後々のトラブルを防ぎ、円滑に手続きを進めることができます。