配偶者への遺贈:遺言書で感謝の気持ちを伝える

1. 配偶者への遺贈の具体的な方法

まず、「遺贈(いぞう)」というのは、遺言によって、特定の人に財産を贈ることです。配偶者への遺贈は、残された妻(または夫)に、ご主人の想いを形として残したい場合にとても有効な方法です。

具体的な方法としては、主に以下の2つがあります。

  • 特定遺贈(とくていいぞう): 「特定の財産」を指定して贈る方法です。例えば、「夫が所有する札幌市中央区の自宅不動産を妻〇〇に遺贈する」といった形です。 遺言書に財産を具体的に特定して記載する必要があります。不動産であれば地番や家屋番号まで正確に、預貯金であれば金融機関名、支店名、口座番号まで記載するとより確実です。
  • 包括遺贈(ほうかついぞう): 「財産の割合」を指定して贈る方法です。例えば、「夫の財産の2分の1を妻〇〇に遺贈する」といった形です。 この場合、妻は相続人と同じように、夫の財産全体に対して指定された割合の権利を持ちます。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金など)も引き継ぐ可能性があるため、注意が必要です。

【遺言書の作成が必須!】 どちらの方法を選ぶにしても、必ず「遺言書」を作成する必要があります。遺言書がなければ、遺贈はできません。遺言書には、主に次の3種類があります。

  1. 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん): ご自身で全文を手書きし、日付と氏名を書いて押印する遺言書です。費用はかかりませんが、書き方に不備があると無効になってしまうリスクがあり紛失や改ざんのリスクもあります。 最近では、法務局で保管してもらえる制度もできて、以前よりも安心できるようになりました。
  2. 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん): 公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。費用はかかりますが、法律の専門家が関わるため、内容に不備がなく、紛失や改ざんのリスクも非常に低い安全な方法です。証人2名が必要になります。
  3. 秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん): 自分で作成した遺言書を封筒に入れ、公証役場で公証人と証人の前で封印してもらう遺言書です。内容を秘密にしたい場合に有効ですが、内容の不備による無効のリスクは残ります。

奥様への確実な遺贈を考えるなら、内容の不備がなく、保管も安心な「公正証書遺言」が一番おすすめです。

2. 遺贈と相続の違い

「遺贈」と「相続」、どちらも亡くなった方の財産を引き継ぐことですが、実は大きな違いがあります。

項目遺贈(いぞう)相続(そうぞく)
根拠遺言書がある場合にのみ発生する法律で定められた相続人が財産を引き継ぐ
財産を受け取る人誰でも指定できる(法定相続人以外でもOK)法定相続人のみ(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)
マイナス財産原則として引き継がない(包括遺贈の場合は引き継ぐ可能性がある)引き継ぐ(放棄の手続きをしない限り)
手続き不動産の名義変更など、受遺者自身が手続きを進める相続人全員で遺産分割協議を行うのが一般的
遺留分遺留分を侵害する可能性がある遺留分を侵害することはない(侵害されても請求権がある)

【分かりやすく例えると…】

  • 相続は、家族みんなで分け合う、お父さんの「普通預金」みたいなものです。法律で誰がどれくらい受け取るか決まっていて、みんなで相談して分けます。
  • 遺贈は、お父さんが「この〇〇は、お母さんに贈るね」と、特別なプレゼントをあげるようなものです。遺言書というお手紙にそのことを書いておくことで、お父さんの特別な意思が実現します。

配偶者は法定相続人でもありますから、「相続」によって財産を受け取ることもできます。しかし、遺言書で「遺贈」という形をとることで、「この財産は、特に妻に遺したい」というご主人の強い意思を明確にすることができます。

特に、ご自宅など、配偶者に残したい特定の財産がある場合には、遺贈という形が非常に有効です。

3. 遺留分への配慮

遺贈を考える上で、絶対に忘れてはいけないのが「遺留分(いりゅうぶん)」です。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保証されている、最低限の遺産の取り分のことです。例えば、お子さんがいる場合、遺言書で「全財産を妻に遺贈する」と書かれていても、お子さんは「自分たちの遺留分を侵害されている」として、その侵害された分を請求する権利があるのです。

【遺留分が認められる法定相続人】

  • 配偶者
  • 子(代襲相続人を含む)
  • 直系尊属(親や祖父母。子がいない場合に限る)

【遺留分の割合(原則)】

  • 配偶者のみ、子のみ、直系尊属のみが相続人の場合:相続財産の2分の1
  • 配偶者と子が相続人の場合:配偶者は相続財産の4分の1、子は相続財産の4分の1を全員で分ける
  • 配偶者と直系尊属が相続人の場合:配偶者は相続財産の3分の1、直系尊属は相続財産の6分の1を全員で分ける

【遺留分への配慮の重要性】

もし、遺言書で配偶者への遺贈を優先しすぎて、他の相続人の遺留分を侵害してしまった場合、その相続人から「遺留分侵害額請求」という請求をされる可能性があります。

そうなると、残された配偶者は、せっかく遺贈された財産の一部を、他の相続人に現金で支払わなければならなくなるなど、思わぬトラブルに発展する可能性があります。

【具体的な配慮の仕方】

  1. 遺留分を考慮した遺贈の割合にする: 他の相続人の遺留分を侵害しないように、遺贈する財産の割合を調整します。これが一番穏便な方法です。
  2. 付言事項(ふげんじこう)で想いを伝える: 遺言書に、遺贈の理由や、残された家族への感謝の気持ちなどを記載する「付言事項」を設けることができます。これは法的な効力はありませんが、ご主人の想いを伝えることで、他の相続人の感情的な理解を得やすくなることがあります。
  3. 生命保険の活用: 遺留分の対策として、生命保険が有効な場合があります。特定の相続人(例えば遺留分があるお子さん)を生命保険の受取人に指定しておくことで、遺産とは別に、保険金という形でその相続人に財産を渡すことができます。保険金は原則として遺留分の対象とならないため、遺留分対策に活用されることがあります

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