配偶者が事業承継する場合の相続対策

1. 配偶者が事業を引き継ぐ場合の相続における課題

まず、夫の事業を妻が引き継ぐ場合、どんなことに困る可能性があるのか、見ていきましょう。

  • 「私にできるかしら…」という不安:これまでご主人が一人でされていた事業を、奥様が急に引き継ぐとなると、「私に経営なんて無理!」と思われるかもしれません。実際、事業内容を理解したり、取引先との関係を築いたりするのは大変なことです。
  • 事業用財産の評価が難しい:会社やお店の建物、土地、機械、商品など、事業に使っているものは、相続の時にどれくらいの価値があるのかを正確に評価するのが難しいんです。評価額が高すぎると、相続税も高くなってしまいます。
  • 従業員の生活も心配:もし奥様が事業を継げなかったり、事業をたたむことになったりすると、そこで働いている従業員の方々の生活も心配になりますよね。
  • 資金繰りの問題:事業を続けていくには、運転資金が必要です。もし相続で現金が少なくなってしまったり、相続税の支払いで手持ちのお金が減ってしまったりすると、事業を回していくのが大変になることもあります。
  • 相続人同士の揉め事:もしお子さんがいたり、ご主人のご両親が生きていらっしゃったりすると、事業の財産を誰がどれくらいもらうかで意見が食い違うこともあります。「私が継ぐ!」と言っても、他の方が納得しない、なんてこともあるかもしれません。

2. 事業承継税制の活用

「相続税が高くなるのは困るわ…」と思われた奥様、ご安心ください!国も、中小企業の事業が途絶えてしまうのは困る、と考えているので、特別な税金対策を用意してくれています。それが「事業承継税制」です。

これは、簡単に言うと、「事業を次の世代に引き継ぐときに、一定の条件を満たせば、相続税や贈与税の支払いを猶予したり、免除したりしますよ」という制度です。妻が夫の事業を引き継ぐ場合も、この制度を使うことができる可能性があります。

事業承継税制のポイント(ざっくりと)

  • 対象となる会社や個人事業主:中小企業が主な対象です。
  • 対象となる財産:事業に使っている株式(会社の場合)や事業用財産(個人事業の場合)などです。
  • 納税猶予・免除の仕組み:相続が発生した時に、本来払うべき相続税の支払いをいったん「待ってあげる」という形になります。そして、一定の条件をクリアし続けていれば、最終的に「払わなくていいですよ」となる場合もあります。
  • 満たすべき条件:これが結構重要です。
    • 妻が事業をしっかりと経営していくこと(会社の代表になる等)。
    • 事業を辞めないこと。
    • 雇用を維持すること(従業員を減らさないように努力すること)など、色々な条件があります。

配偶者へのアドバイス

この事業承継税制は、とても複雑な制度です。申請の仕方や、満たすべき条件も細かく決まっています。

  • 税理士さんに相談する:必ず、事業承継に詳しい税理士さんに相談してください。奥様の事業の状況に合わせて、この制度が使えるのか、どうすれば使えるのか、詳しく教えてくれます。
  • 早めに準備する:ご主人がお元気なうちに、この制度について知っておくことが大切です。「もしもの時」に慌てないように、ご夫婦で話し合っておくことをお勧めします。

3. 遺言書による対策

遺言書は、「私の財産を誰にどう渡すか」をご主人が生前に決めておく、大切な「メッセージ」です。奥様が事業を引き継ぐ上で、遺言書は非常に強い味方になります。

遺言書がなぜ大切なの?

  • 事業の財産を奥様に集中できる:ご主人が「事業に関する財産は全て妻に相続させる」と遺言書に書いておけば、事業に必要なものを奥様が確実に引き継ぐことができます。これにより、他の相続人との揉め事を防ぎ、事業をスムーズに引き継ぐことが可能になります。
  • 遺産分割協議が不要になる:遺言書がないと、相続人全員で「誰がどの財産をどれくらいもらうか」を話し合って決める「遺産分割協議」が必要になります。事業用財産が含まれる場合、この協議がまとまらないと、事業の運営に支障が出ることもあります。遺言書があれば、原則としてこの協議は不要になります。
  • 妻が事業を引き継ぐ意思を明確にできる:夫が遺言書で妻に事業を任せると明記することで、妻も「私が引き継ぐんだ」という覚悟と自信を持つきっかけになります。

遺言書の種類と注意点

遺言書にはいくつか種類がありますが、一番確実で安心なのは「公正証書遺言」です。

  • 公正証書遺言:公証役場で公証人という専門家が作成してくれる遺言書です。法律の専門家が関わるので、形式不備で無効になる心配がほとんどなく、紛失の心配もありません。費用はかかりますが、後々のトラブルを避けるためには最も有効な方法です。
  • 自筆証書遺言:ご自身で全て手書きで書く遺言書です。費用はかかりませんが、書き方を間違えると無効になったり、内容が不明確でトラブルになったりする可能性があります。また、紛失したり、発見されない可能性もあります。

奥様へのアドバイス

  • ご主人に書いてもらう:ご主人に、「もしもの時は、私が事業を継げるように、遺言書を書いてほしい」とお願いしてみてください。
  • 専門家に相談する:遺言書の内容は、ご主人の意思を正確に反映させることが重要です。また、法的に有効な遺言書を作成するためには、弁護士や司法書士といった専門家に相談することをお勧めします。事業承継の意図が明確になるように、具体的な内容を盛り込んでもらうことが大切です。
  • 付言事項も活用する:遺言書には、財産の分け方だけでなく、「付言事項」として、ご家族へのメッセージや、奥様への事業に関する思いなどを書き添えることができます。これにより、ご主人の真意が伝わりやすくなり、相続人の方々も納得しやすくなります。

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