内縁の妻(夫)には相続権がない?対策は?

事実婚における相続権の有無

まず、結論から申し上げますと、事実婚のパートナーには、法律上、相続権はありません。

これは、民法という法律で、相続人になれる人の範囲が厳しく定められているからです。具体的には、配偶者(法律婚している夫または妻)、子、孫、親、兄弟姉妹などが相続人となりますが、事実婚のパートナーはここに含まれないのです。

「一緒に暮らしていても、長年連れ添っていても、相続できないの?」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながら法律上はそうなっています。

相続させたい場合の対策

では、事実婚のパートナーに財産を残したい場合、どのような対策があるのでしょうか。主に「遺言書」と「生前贈与」という二つの方法があります。

1. 遺言書による対策

遺言書は、亡くなった方が生前に「自分の財産を誰にどのように分けるか」を意思表示するための大切な書類です。

遺言書があれば、事実婚のパートナーに財産を遺すことができます。

ただし、遺言書にはいくつか種類があり、法律で定められた形式に従って作成しないと無効になってしまう可能性があります。特に大切なのは以下の2つのタイプです。

  • 自筆証書遺言:
    • ご自身で全文を手書きし、日付と氏名を書いて押印するものです。
    • 費用がかからず手軽に作成できますが、形式不備で無効になったり、紛失・隠匿の恐れがあったりする点に注意が必要です。
    • 2020年7月10日からは、法務局で保管してもらえる制度も始まりました。法務局で保管してもらうことで、紛失や偽造のリスクを減らすことができます。
  • 公正証書遺言:
    • 公証役場で公証人という専門家が作成してくれる遺言書です。
    • 証人2人以上の立ち会いが必要ですが、法律の専門家が関わるため、形式不備の心配がほとんどなく、紛失の心配もありません。
    • 費用はかかりますが、最も確実な方法と言えるでしょう。

【ポイント】

  • 遺言書には、「〇〇の財産は、事実婚のパートナーである〇〇に遺贈する」というように、誰にどの財産をどれだけ渡すのかを具体的に明記することが重要です。
  • 遺言書があっても、他の相続人(お子さんなど)には「遺留分」という最低限もらえる権利があります。もし遺留分を侵害するような内容の遺言書を作成した場合、後々トラブルになる可能性もありますので、専門家(弁護士や司法書士)に相談することをおすすめします。

2. 生前贈与による対策

生前贈与とは、生きているうちに相手に財産を贈与することです。

生前贈与によって、事実婚のパートナーに財産を渡すことができます。

生前贈与には、主に以下の方法があります。

  • 通常の贈与:
    • 年間110万円までは贈与税がかからない「暦年贈与」という非課税枠があります。これを超えると贈与税が発生しますが、計画的に贈与を進めることで、税負担を抑えながら財産を移すことができます。
    • 現金だけでなく、不動産や自動車なども贈与できます。
  • 死因贈与契約:
    • 「自分が亡くなったら、この財産を贈与します」という契約を、生前にパートナーと結ぶ方法です。
    • 遺言書と似ていますが、契約なのでパートナーの合意が必要です。遺言書のように一方的に撤回できないという特徴があります。

【ポイント】

  • 生前贈与は相続とは異なり、贈与税がかかる可能性があります。贈与する財産の額や種類によって税金が変わってきますので、税理士に相談することをおすすめします。
  • 不動産などの大きな財産を贈与する場合は、名義変更の手続きも必要になります。

その他の対策(生命保険・医療保険の活用)

生命保険や医療保険も、事実婚のパートナーへの備えとして有効な手段です。

  • 生命保険:
    • 生命保険は、契約時に受取人を指定できます。この受取人に事実婚のパートナーを指定することで、万が一のことがあった際に保険金を受け取ってもらうことができます。
    • 生命保険金は、受取人固有の財産とみなされ、原則として相続財産には含まれません(みなし相続財産として相続税の対象にはなることがあります)。そのため、他の相続人の遺留分の対象にもならないというメリットがあります。
  • 医療保険:
    • 医療保険の受取人は、被保険者本人であることが一般的ですが、入院給付金などを事実婚のパートナーが受け取れるように契約内容を工夫できる場合があります。また、もしもの時の医療費の負担を軽減することで、残されたパートナーの経済的負担を減らすことにもつながります。

まとめとアドバイス

事実婚における相続は、法律婚とは異なる点が多いため、事前の対策が非常に重要です。

  1. 遺言書の作成を検討する: 特に公正証書遺言が最も確実な方法です。
  2. 生前贈与を計画的に活用する: 贈与税についても考慮に入れましょう。
  3. 生命保険の受取人に指定する: 万が一の際の生活保障として有効です。

これらの対策を単独で行うだけでなく、組み合わせて行うことで、より盤石な備えができます。

何よりも大切なのは、お二人の間で、将来についてしっかりと話し合い、お互いの希望を共有することです。

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