寄与分とは?
まず、寄与分とは何か、からお話ししましょう。
相続は、亡くなった方(「被相続人」といいます)の財産を、法律で定められた「法定相続人」が分け合うのが基本です。でも、もし相続人の中に、被相続人の財産が増えたり、減るのを防いだりするために、特別な貢献をした方がいたらどうでしょう? その方が、他の相続人と同じ割合でしか財産をもらえないとしたら、なんだか不公平に感じますよね。
そこで、民法には「寄与分」という制度があります。これは、「被相続人の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人に対して、その貢献に見合った分の財産を多めに受け取れるようにする」ための制度なんです。
特に、配偶者の方が長年、家業を手伝ったり、献身的に介護をしたりして、ご主人の財産形成に大きく貢献されてきたケースは少なくありません。そうした努力がきちんと評価されるのが、この寄与分という制度です。
配偶者が寄与分を主張するための条件
では、どんな場合に寄与分が認められるのでしょうか? 配偶者の方が寄与分を主張するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
1. 法定相続人であること
まず大前提として、寄与分を主張できるのは「法定相続人」に限られます。配偶者は常に法定相続人ですので、この点は問題ありません。もし、法定相続人ではない親族(例えば、お嫁さんなど)が貢献した場合は、「特別寄与料」という別の制度で請求することになります。
2. 被相続人の財産の維持または増加に貢献したこと
ご主人の財産が増えるのを助けたり、減るのを防いだりするような貢献があったことが必要です。
3. 通常期待される程度を超える「特別な」寄与であること
ここが一番のポイントになります。夫婦の間には、お互いに助け合う「協力扶助義務」がありますよね。なので、通常の家事や育児、ごく一般的な介護などは、この義務の範囲内とみなされ、寄与分としては認められにくい傾向にあります。
「特別な」寄与と認められるのは、例えば、以下のようなケースです。
- 家事従事型: ご主人の個人事業(農業、商店、医院など)を、長年、無償または非常に低い報酬で手伝い、その事業の売上増加や維持に大きく貢献した。
- 金銭等出資型: ご主人の不動産購入費用や借金返済のために、ご自身の収入や財産から多額の金銭を支出した。
- 療養看護型: ご主人が病気や高齢で、通常ではプロの介護士を雇うような状況で、長期間にわたり献身的に介護・看護を行ったことで、介護費用などの出費を大幅に抑えることができた。
- 財産管理型: ご主人の財産(アパート経営など)を代行して管理し、通常なら管理料がかかるような業務を無償で行い、財産の維持・増加に貢献した。
4. 無償、またはそれに近い状態での貢献であること
貢献に対して、相応の対価(例えば、適正な給与など)を受け取っていなかったことが条件になります。もし、給与をもらっていた場合は、それが貢献に見合っていたかどうかが判断されます。
5. 一定期間以上継続して貢献したこと
単発的な貢献ではなく、ある程度の期間、継続して貢献していたことが重要です。例えば、療養看護型であれば、数年~10年以上の長期にわたる介護が評価される傾向にあります。
寄与分を主張するための手続き
寄与分を主張するには、大きく分けて次の3つのステップがあります。
ステップ1:遺産分割協議で話し合う
まず、亡くなったご主人の相続人全員で話し合う「遺産分割協議」の場で、ご自身の貢献について具体的に説明し、寄与分を主張します。
- ポイント:
- ご自身の貢献が、ご主人の財産形成にどのように役立ったのかを具体的に、分かりやすく説明しましょう。
- この段階で、他の相続人全員が納得し、合意できれば、その内容で遺産分割を行うことができます。
ステップ2:遺産分割調停を申し立てる(合意できない場合)
もし、遺産分割協議で他の相続人との合意が得られない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。
- 調停とは?
- 裁判官と調停委員(専門家の方)が間に入って、相続人全員の意見を聞きながら、話し合いをまとめる手伝いをしてくれる制度です。
- 寄与分についても、調停委員が客観的な視点から評価し、解決策を提案してくれます。
- 調停が成立すれば、その内容が「調停調書」という形で残ります。これは、裁判所の判決と同じ効力を持つため、後のトラブルを防ぐことができます。
ステップ3:遺産分割審判に移行する(調停が不成立の場合)
調停でも合意に至らない場合は、自動的に「遺産分割審判」に移行します。
- 審判とは?
- 裁判官が、提出された証拠や主張に基づいて、最終的に遺産の分割方法を決定します。
- 寄与分についても、裁判官が判断を下します。
寄与分を認めてもらうための具体例と準備する証拠
「特別な貢献」と認められるには、客観的な証拠がとても大切です。
具体例と必要な証拠
寄与のタイプ | 具体的な貢献の例 | 準備する証拠の例 |
家事従事型 | 配偶者の農業を手伝い、収穫量増加に貢献した。 配偶者の飲食店で、開店から閉店まで無給で働いた。 | ・事業に関する帳簿、確定申告書(配偶者の収入が増加したことを示す) ・ご自身の勤務状況が分かるもの(タイムカード、同僚や取引先の証言) ・ご自身が事業運営に不可欠であったことを示す資料(業務内容の詳細な記録、外部委託した場合の費用見積もりなど) ・ご自身が給与を受け取っていなかった、または低額だったことを示す資料 |
金銭等出資型 | 配偶者の自宅購入資金の大部分をご自身の貯金から出した。 配偶者の借金を立て替えて返済した。 | ・預貯金通帳の入出金記録(ご自身から配偶者への送金や支払いの記録) ・不動産売買契約書、登記簿謄本(配偶者が費用を負担したことが分かる記載) ・借金の返済に関する書類、領収書 ・クレジットカードの利用明細(配偶者のための支出を示すもの) |
療養看護型 | 配偶者が寝たきりになり、仕事を辞めて24時間体制で介護した。 認知症の配偶者を、ヘルパーを雇わず自宅で献身的に介護した。 | ・被相続人の診断書、要介護認定の書類 ・介護日誌(いつ、どんな介護をどれくらいの時間行ったか、詳細に記録したもの) ・介護サービスの利用に関する記録(ヘルパーを利用していればその記録、利用していなければその理由) ・介護のために仕事を辞めた、または休んだことを示す書類(勤怠記録など) ・医療費の領収書や薬代の記録(ご自身が負担した場合) |
財産管理型 | 配偶者の所有する賃貸アパートの管理を、家賃の徴収から修繕の手配まで全て無償で行った。 | ・賃貸借契約書、家賃の入金記録(ご自身が管理していたことを示す) ・修繕や清掃に関する業者とのやり取りの記録(メール、見積書、請求書など) ・管理業務の内容が分かる記録(日報など) ・通常であれば管理会社に支払う管理料の相場に関する資料 |
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証拠集めのポイント
- 客観的な証拠: 主観的な主張だけでなく、客観的に貢献を裏付ける資料が重要です。
- 記録: 日記やメモ、家計簿など、日々の記録が後々大きな証拠となることがあります。
- 第三者の証言: 親族やご近所の方、介護ヘルパーなど、ご自身の貢献を見ていた人の証言も有効な場合があります。
- 弁護士に相談: どんな証拠を集めれば良いか、具体的にどう主張すれば良いか、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。