遺留分侵害額請求は、まず当事者同士で話し合いをすることが基本です。しかし単に口頭で請求するだけでは、後で「言った」「言わない」のトラブルになる可能性があります。そこで「内容証明郵便」を使って、正式に請求の意思表示をすることが重要になります。
【内容証明郵便を送る理由と効果】
- 請求の意思表示の証拠になる:いつ、誰が、誰に、どのような内容で請求したのかを郵便局が証明してくれます。
- 時効の中断効果:遺留分侵害額請求権には、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ってから1年、または相続開始から10年という短い時効があります。内容証明郵便を送ることで、この時効の進行を一時的に止めることができます。
- 相手にプレッシャーを与える:法的な手続きを視野に入れていることを相手に示し、話し合いに応じてもらいやすくなります。
【内容証明郵便の準備と送り方】
- 文面の作成:
- 送る相手(受遺者・受贈者)を特定する情報:氏名、住所
- 送る人(遺留分権利者)を特定する情報:氏名、住所
- 相続が開始した日付
- 遺留分を侵害している遺贈や贈与の内容:例えば「〇年〇月〇日付遺言書による、貴殿への自宅不動産の遺贈」など。
- 遺留分を請求する意思の明確な表明:「上記遺贈により当方の遺留分が侵害されましたので、遺留分侵害額金〇円を請求いたします。」といった内容。
- 請求金額:ご自身の遺留分がいくらで、いくら侵害されているのか、具体的な金額を記載します。この金額の計算は複雑なので、後述の専門家への相談が必須です。
- 支払期限の提示:例えば「本書面到達後〇日以内に、下記の口座にお振込みください」など。
- 3部作成する:
- 相手に送る分
- 郵便局が保管する分
- 自分の控え
- 郵便局で手続き:
- 集配郵便局(大きな郵便局)で、内容証明郵便の取り扱いがある窓口に行きます。
- 作成した3部の書類と、本人確認書類、印鑑を持参します。
- 郵便料金と内容証明料を支払います。
【請求金額の計算について】
遺留分侵害額の計算は、亡くなった方の全財産(プラスの財産だけでなく、生前贈与された財産なども含めることがあります)から借金などのマイナス財産を差し引き、さらに遺留分の割合を掛けて計算します。この計算は非常に複雑で、法律の専門知識が求められます。
ご自身で内容証明郵便を送る前に、必ず弁護士に相談して、正確な請求金額を算出してもらいましょう。 不正確な請求をしてしまうと、後のトラブルにつながる可能性があります。
2. 話し合いで解決できない場合の「法的手続き」
内容証明郵便を送っても相手が話し合いに応じなかったり、話し合いがまとまらなかったりした場合は、裁判所の手続きに進むことになります。
- 遺留分侵害額の請求調停(家庭裁判所)
- 目的:裁判官や調停委員を交えて、話し合いによる解決を目指す手続きです。
- 申立て先:原則として、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 流れ:
- 家庭裁判所に調停申立書と必要書類(戸籍謄本、住民票、不動産登記事項証明書、預金残高証明書など、相続財産や相続人を特定するための書類)を提出します。
- 裁判所から相手方と申立人に調停期日(話し合いの日)の連絡が来ます。
- 調停期日に裁判所に出向き、調停委員を介して話し合いを行います。通常、何回か期日が設けられます。
- 合意に至れば、その内容が「調停調書」として作成され、確定判決と同じ効力を持ちます。
- 当事者同士が直接対面することが少ないため、感情的な対立を避けやすい。
- 専門家である調停委員が公平な立場でアドバイスをしてくれる。
- 比較的短期間で解決する可能性がある。
- 訴訟よりも費用が安い。
- 遺留分侵害額請求訴訟(地方裁判所)
- 目的:調停でも解決しない場合に、裁判所が法律に基づいて判断を下す手続きです。
- 申立て先:原則として、相手方の住所地を管轄する地方裁判所
- 流れ:
- 地方裁判所に訴状を提出し、裁判を起こします。
- 裁判官が双方の主張を聞き、証拠を調べます。
- 和解の勧告がされることもありますが、最終的に和解が成立しない場合は、裁判官が判決を下します。
- 判決が下されると、それに従う義務が生じます。
- 訴訟になると、専門的な法律知識や裁判の進行に関する知識が不可欠になります。そのため、弁護士に依頼することが必須と考えた方が良いでしょう。
- 時間も費用もかかりますし、精神的な負担も大きくなります。
3. 誰に相談すればいいの?
遺留分請求は、非常に専門的な知識が必要な手続きです。ご自身で全てを完璧に行うのは困難です。
- 弁護士:
- 最もお勧めです。遺留分の正確な計算、内容証明郵便の作成、相手方との交渉、調停や訴訟の代理人など、全ての段階で専門的なサポートを受けることができます。
- トラブルになる前に、まずは弁護士に相談し、今後の戦略を立てるのが賢明です。
- 司法書士:
- 内容証明郵便の作成や、遺留分の計算に関する相談に乗ってくれる場合があります。ただし、紛争性のある交渉や、裁判の代理人になることはできません。
- 遺言書作成の段階で遺留分について相談する場合は、司法書士も良い選択肢です。